「ビジネス教養としてのウイスキー」を学ぶ
マッカラン60年の落札額は驚異的で別世界の話だが,そのマッカランがスポンサーとなり,オックスフォードやケンブリッジを含む英国の大学で学生対象のテイスティングセミナーを開催しているといった話も興味深い.
どこか弊学でセミナーしませんか?
投資してのウイスキーの話ばかりではなく,庶民の酒だったウイスキーが,オークションで競売されるようになるとは誰も思わなかったウイスキーが,ここまで世界的に認知されるようになったのはどうしてなのかという歴史的経緯も解説されている.
ウイスキーの歴史については,それ以外の実に多くのことと一緒に,ウイスキー検定を受検するために頭に詰め込んだ.その歴史と重複する部分もあるが,本書「ビジネス教養としてのウイスキー」では,また違った観点から説明されており,ウイスキーを多角的に捉えるという意味でよかった.
現在は空前のウイスキーブームの最中にあり,人気のボトルは入手するのが極めて困難になっている.ジャパニーズウイスキーの人気も高く,サントリーのシングルモルトである山崎や白州,そのブレンドである響,ニッカの竹鶴など,特にそれらの長期熟成されたボトルは高額で取引されており,リーズナブルな価格で手に入れるのは極めて難しい.もっぱら抽選に頼るしかない.新しいウイスキーも転売屋がはびこっている.
ウイスキーを飲みたいだけの個人としては,ウイスキーブームは嬉しくない.
このウイスキーブームを牽引しているのは,クラフトウイスキーである.本場スコットランドでも,老舗アイルランドでも,そして日本でも,新しい蒸溜所が次々と誕生している.そのような蒸溜所の中には,地域社会と密接な関係を築き,地域社会と共に発展していこうとするところもある.日本国内の例として,北海道の厚岸蒸溜所が挙げられている.
このような例を含め,原料となる大麦麦芽や穀類の生産,熟成に必要な木樽の調達,そしてウイスキーに適した水の供給など,ウイスキーが地域性を活かし,地産地消を目指すと,地域の一次産業との連携が必要になり,ウイスキー生産が地域経済の活性化に繋がる.このような観点でもウイスキーを捉えていく必要があるだろう.
「ウイスキーは日本人に必須の教養である」とまでは思わないが,ウイスキーを飲むのも,ウイスキーを知るのも,大いに楽しんでいる.そんな楽しみをちょっと深めるのに,本書「ビジネス教養としてのウイスキー」はよいと思う.
© 2023 Manabu KANO.