AI 2041:人類は人工知能をうまく扱えるか?
とても面白く刺激的な思考実験小説と技術解説だ.生成AI・基盤モデルが劇的な進化を遂げる今,自分の頭だけで考えられることなんて僅かだが,こういう本などを読んで刺激を受けたうえで,色々と考えてみることは大切だろう.果たして,20年後の人類社会はどうなっているのか.人類は人類の幸福のために人工知能をうまく使えるだろうか.
本書「AI 2041 人工知能が変える20年後の未来」は,人工知能に関連する技術を取り上げて,合計10個の小説として20年後(2041年)の未来社会を描いている.その上で,AI関連技術について解説している.単なる技術解説ではなく,技術をうまく活用した場合に人類が得られるであろう効能と,悪用した場合の危険性を,小説を巧みに利用してわかりやすく提示している.
例えば,未来1「恋占い」では,個々人の生体情報や行動履歴を掌握した保険会社のAIがビッグデータ解析によって人間に適切な行動を強く促すようになる.安全運転を心掛けるようになったり,飲酒量を減らすようになるのは良いことだろう.一方,学習に用いるデータの特徴のためにAIは強いバイアスを持ち,その結果として,差別的な行動を促すこともある.それにどう立ち向かうのか.
未来7「人類殺戮計画」では,マッドサイエンティストが,量子コンピュータを暗号解読に用いて莫大な暗号通貨を手に入れ,自律型攻撃ドローンを大量に用意して,人類を滅亡の危機に陥れる.現実には,マッドサイエンティストが手を下さなくても,国家がやるだろう.そのような未来を人類は回避できるのか.
未来8「大転職時代」と未来10「豊饒の夢」では,AIが人間の仕事を奪っていく過程で起こる社会的混乱と,その先にある社会制度が描かれている.採用される可能性の高い制度のひとつがベーシック・インカムだ.再生可能エネルギーの供給が十分あり,モノの生産やサービスの提供を人工知能とロボットが担うようになれば,それらのコストは劇的に下がり,人間の労働は必要でなくなり,働かなくても食べられる状況が生まれうる.ただ,ベーシック・インカムで最低限の生活が保証されても,それだけでは人間は幸せになれない.生きる意味を求める.そのときの社会はどのような姿になっているのか.
このような問いが投げかけられる.とても刺激的だ.強くオススメできる.
未来について考えるための本としては,本書「AI 2041 人工知能が変える20年後の未来」に加えて,「2050年の世界」もお勧めしたい.
© 2024 Manabu KANO.