研究の面白さと辛さを感じられる「赤と青のガウン」
彬子女王殿下のオックスフォード大学留学記で,1年間の学部留学に加えて,大学院に進学して日本美術を専攻して博士号を授与されるまでの体験が描かれている.研究の楽しさと大変さが大いに感じられる体験記だ.是非,高校生や大学生に読んでほしいと切に思う.
宮家が海外留学すると護衛はどうなるのかとか,エリザベス女王にバッキンガム宮殿でのお茶に招かれたら服をどうするのかとか,とても興味深いエピソードが続く.これだけでも実も興味深く,読んでみる価値がある.
しかし,本書「赤と青のガウン オックスフォード留学記」の最大の魅力はそこではないと思う.
オックスフォード大学で博士号を取得するというのは並大抵のことではない.本書には,その過酷さが滲み出ている.マートン・コレッジで最も厳しいと評判の教授に指導してもらいながら,修士ではなく博士を目指すことに決めてからの奮闘,学生寮での孤独な論文執筆,締切が迫るなか遅々として進まない原稿執筆の重圧に起因する胃炎など,博士になることの大変さにとても共感した.
それでも,苦しいだけではない.研究を支えてくれる研究者たち,心を和ませてくれる友人たち,多くの人々との貴重な出会いがあり,そういう縁に恵まれて,それを大切にしながら生きていくことの大切さが強烈に伝わってくる,晴れて最終口頭試問に合格し,青と赤のガウンを着て学位授与式に出席し,留学そして研究を支えてくれた人達と喜びを分かち合う姿に心打たれる.
本当に,高校生や大学生に読んでほしいと思う本だ.
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