私は未来を想い描くのがとても苦手なので,バックキャスティングしろ!とか言われると非常に困ってしまう.著者のヘイミシュ・マクレイは,わからないものはわからないとしつつも,今手に入る手掛かりをもとに,ありえそうな未来を描きだす.ヘイミシュ・マクレイが描く未来の世界の姿になるほどと思いつつ,その想い描き方が非常に参考になった.深刻化する環境問題や紛争を見れば悲観的になって当然に思えるが,著者は根本で人類を信じており,明るい未来を見ている.そこも良かった.
未来を予測するときに,まずその根拠となるのが人口動態だ.これは外せない.日本が凋落してきたのは少子高齢化で人口減少が続いてきたからであり,今後に期待が持てないのは人口減少が止められないからだ.本書「2050年の世界 見えない未来の考え方」でも人口動態を重視して,各国・地域の将来像を描いている.
このため当然ながら,既に少子高齢化が進んでいる先進国の影響力は弱まっていく.日本は当然のことながら,欧州EUの国際社会における影響力も弱まる.先進国で例外となるのはアメリカだ.今後も移民を受け入れ,世界中から優秀な人材を惹き付けることで,アメリカは世界の大国であり続ける.アメリカと繋がりの深いアングロ圏の国々はその恩恵を受けるだろう.
中国は影響力を増す.少子化が進み人口は減少しているが,米国と覇権を争う大国であり続ける.ただし,ヘイミシュ・マクレイは,中国は米国と対立するのではなく,強調する方向に舵を切るだろうと予想する.現在のような独裁体制も長くは続かないだろうと言う.
人口の大きさで言えば,インドが影響力を増していくことは確実だ.あと,若いアフリカも.アフリカは国によって状況が異なるが,とにかく若い.人口ピラミッドがピラミッドの形をしている.若者に活躍の場を与えられれば経済的にも大きく成長するだろう.
本書「2050年の世界 見えない未来の考え方」には,このようなことが書かれており,著者は明るい未来を予想している.ただ,本当に人類が明るい未来を引き寄せるためには,様々な問題を解決しなければならない.環境・資源の問題もそうであるし,戦争・紛争もそうである.
実際,本書でも中東情勢は不安材料として挙げられているが,イスラエルがパレスチナを殲滅する行動に出た.その前には,ロシアがウクライナを攻撃し,人類は本書が描く明るい未来から遠ざかっているようだ.
本書で示されている将来展望10個は以下の通りである.
「それは知ってた」という事柄も多いと思うが,読んでおく価値のある本だと思う.ハンス・ロスリングの「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」がまさにそうだが,世界についての知識や認識を最新のものに更新(アップデート)し続けなければならない.それができていない人が多いのが現実だろう.だからこそ,その見返りも大きいはずだ.特に若い世代にとっては.
© 2024 Manabu KANO.