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「2050年の世界」はどうなっているか:未来を予測するための考え方を学ぶ

私は未来を想い描くのがとても苦手なので,バックキャスティングしろ!とか言われると非常に困ってしまう.著者のヘイミシュ・マクレイは,わからないものはわからないとしつつも,今手に入る手掛かりをもとに,ありえそうな未来を描きだす.ヘイミシュ・マクレイが描く未来の世界の姿になるほどと思いつつ,その想い描き方が非常に参考になった.深刻化する環境問題や紛争を見れば悲観的になって当然に思えるが,著者は根本で人類を信じており,明るい未来を見ている.そこも良かった.

2050年の世界 見えない未来の考え方
ヘイミシュ・マクレイ,日本経済新聞出版,2023

未来を予測するときに,まずその根拠となるのが人口動態だ.これは外せない.日本が凋落してきたのは少子高齢化で人口減少が続いてきたからであり,今後に期待が持てないのは人口減少が止められないからだ.本書「2050年の世界 見えない未来の考え方」でも人口動態を重視して,各国・地域の将来像を描いている.

このため当然ながら,既に少子高齢化が進んでいる先進国の影響力は弱まっていく.日本は当然のことながら,欧州EUの国際社会における影響力も弱まる.先進国で例外となるのはアメリカだ.今後も移民を受け入れ,世界中から優秀な人材を惹き付けることで,アメリカは世界の大国であり続ける.アメリカと繋がりの深いアングロ圏の国々はその恩恵を受けるだろう.

中国は影響力を増す.少子化が進み人口は減少しているが,米国と覇権を争う大国であり続ける.ただし,ヘイミシュ・マクレイは,中国は米国と対立するのではなく,強調する方向に舵を切るだろうと予想する.現在のような独裁体制も長くは続かないだろうと言う.

人口の大きさで言えば,インドが影響力を増していくことは確実だ.あと,若いアフリカも.アフリカは国によって状況が異なるが,とにかく若い.人口ピラミッドがピラミッドの形をしている.若者に活躍の場を与えられれば経済的にも大きく成長するだろう.

本書「2050年の世界 見えない未来の考え方」には,このようなことが書かれており,著者は明るい未来を予想している.ただ,本当に人類が明るい未来を引き寄せるためには,様々な問題を解決しなければならない.環境・資源の問題もそうであるし,戦争・紛争もそうである.

実際,本書でも中東情勢は不安材料として挙げられているが,イスラエルがパレスチナを殲滅する行動に出た.その前には,ロシアがウクライナを攻撃し,人類は本書が描く明るい未来から遠ざかっているようだ.

本書で示されている将来展望10個は以下の通りである.

1. 世界人口の約2/3が中間層と富裕層になる
2. アメリカの先行きは明るい
3. アングロ圏が台頭する
4. 中国が攻撃から協調に転じる
5. EUは中核国と周辺国に分かれる
6. インド亜大陸の勢力が強まり、世界の未来を形成する
7. アフリカの重要性が高まり、若い人材の宝庫となる
8. グローバル化は〈モノ〉から〈アイデアと資金〉にシフトする
9. テクノロジーが社会課題を解決する
10. 人類と地球の調和が増す

「それは知ってた」という事柄も多いと思うが,読んでおく価値のある本だと思う.ハンス・ロスリングの「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」がまさにそうだが,世界についての知識や認識を最新のものに更新(アップデート)し続けなければならない.それができていない人が多いのが現実だろう.だからこそ,その見返りも大きいはずだ.特に若い世代にとっては.


目次
● 世界の現在地
序章 2020年からの旅
・未来について考える
・経済予測の核
・環境の課題
・テクノロジーの謎
・社会のあるべき姿についての考え方は変わる
・政治、宗教、紛争
・よりバランスのとれた世界か、よりカオスな世界か
・旅のつぎのステージ 
第1章 わたしたちがいま生きている世界
アメリカ大陸―いまも未来の鍵を握る
・ヨーロッパ―最も高齢な大陸
・アジアの新興大国―中国とインド
・日本と韓国・北朝鮮
・東南アジアの「虎」
・アフリカと中東―世界で最も若い地域
・オセアニア―オーストラリアは幸運の国でありつづけるか
・今日の世界が明日の世界を形づくる

● 変化をもたらす五つの力
第2章 人口動態 ― 老いる世界と若い世界
世界人口は100億人に向かう
・老いる先進世界
・中国は縮み、インドは膨らむ
・アフリカの人口急増
・なぜ人口動態はこれほど重要なのか
第3章 資源と環境 ― 世界経済の脱炭素化
いくつもの懸念から一つの甚大な懸念へ
・食料と水は足りなくなる
・世界のエネルギー供給における地殻変動
・都市化、生物多様性、ほかの天然資源への圧力
・気候変動―なにが起きるのか、わたしたちになにができるのか
・進むべき道
第4章 貿易と金融 ― グローバル化は方向転換する
2008~2009年の金融危機が残した傷跡
・国際貿易の性質の変化―財の貿易からアイデアと資本の貿易へ
・金融と投資―新しい課題、新しい形のマネー
・2050年の貿易と金融
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
つぎの30年間に関する大きな疑問
・漸進型の進歩の重要性はとてつもなく大きい
・通信革命はどこまで続くのか
・なぜAIはこれほど重要なのか
・監視社会
・ブレイクスルーはどこからやってくるか 
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
民主主義への数々の挑戦
・代表制民主主義はなぜ支持されなくなっているのか
・民主主義の機能を高められるのか
・このまま手探りで進むか、民主主義を後退させるか、前進させるか
・国際機関はどうなるのか
・市場資本主義はどうなるのか
・統治と社会の変化
・政府に対する考え方と2050年の統治

● 2050年の世界はどうなっているのか
第7章 アメリカ大陸
アメリカ合衆国―偉大なグローバルリーダーでありつづける
・カナダ―多様性を享受する国
・メキシコ―世界の10大経済国へのいばらの道
・南アメリカ―果たされない約束、数々の失敗、飛躍する可能性
第8章 ヨーロッパ
ヨーロッパの夢は遠のく
・イギリスとアイルランド―いばらの道の先にある揺るぎない未来
・ドイツとベネルクス三国―小欧州の中核
・フランス―憂鬱な美の国
・イタリア―強いリーダーを求める
・イベリア半島―東だけでなく西にも目を向ける
・スカジナビアとスイス―静かな繁栄
・中央・東ヨーロッパ―ロシアと西側の両にらみ
・ロシア―世界最大の国を待ち受けるいばらの道
・トルコ―大きな機会と不安定な統治
・ヨーロッパのまとめ
第9章 アジア
アジアの世紀
・中華圏―世界におけるあるべき地位を取り戻す
・香港と台湾―悩ましい未来
・インドとインド亜大陸―エキサイティングだが道は険しい
・インドの隣国―パキスタン、バングラデシュ、スリランカ
・日本―高齢化社会のパイオニア
・東南アジア―危ういサクセスストーリー
第10章 アフリカ・中東
世界最速の成長がつづく
・サハラ以南アフリカ―雇用を生み出す
・北アフリカと中東―アラブ世界
・中東―安定を願い求める
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
幸運な国は一つではなく、二つになる
・……そして太平洋―世界最大の海

● 本書の大きな考え方
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ―不安、希望、判断
確かなことと不確かなことのバランスをとる
・10の不安
・10の大きな(主に前向きな)考え方
・2050年のその先に

© 2024 Manabu KANO.

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