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ワイルドロボットを観る
俺はどちらかというと『ワイルドロボット』というタイトルの方が好きである。『野生の島のロズ』の方が日本ウケするんだろうけど、原語だとおそらく「わたしは“ワイルドロボット”だ!」とタイトル回収するところが、本邦版だとそうはならないのが惜しい。あそこ多分いちばんアツくて盛り上がる部分なのに、これじゃ台無しである。
2024年の二大ロボットアニメ映画といえば『TF ONE』とこれだろうが、俺は完全にこっち派である。「TFはもう何を出されようとマイケル・ベイ版と比べちゃうし見劣りするよね」というのもある上に、実はベイやスピルバーグが関わっている『ONE』よりも『ワイルドロボット』の方がベイイズムやドリームワークス創業者であるスピルバーグのえげつなさを帯びていたりする。
とにかく残酷なのだ。ふつうに動物の子どもが死んだりちょんぱされた首が映ったりする、自然本来のの過酷な生存競争があんまり隠されない。
一見ピクサーでもあるような「子供に対してごまかしをしない/現実を正しく示すスタイル(それこそバーホーベンが突き詰めまくっているこの世のあけすけさをスクリーンに展開するようなこと)」のようだが、正直俺は『インディー・ジョーンズ』シリーズのようなえげつない悪意というか悪趣味を感じた。『レイダース』でナチスの顔面がドロドロに溶けるとってもグロいシーンを観ればわかるが、「子供に現実を正しく見せる」のではなく「子供相手にハード・コアポルノを見せつける」ような悪意を強く感じるのである。そもそもPG-13というレーティングが追加されるきっかけとなったのはスピルバーグであり、わざわざそういうことをする姿勢からも彼の悪意というものが伺える。
また展開のせわしなさからはベイイズムを感じた。はっきり言って『アンビュランス』と同じくらい忙しない。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、テンポの良さと絶え間ないトラブルが続く感じは過剰の域に達している。要所要所は押さえているのでストーリー自体に納得はいくししようと思えば感動もできるのだが、正直序盤中盤終盤の要所を除けばそれ以外はひたすらやりすぎと言っていいくらい忙しない。原作付きとはいえ「ここまで展開を盛るのか」と思う。
劇伴にしてもいささかかっこよすぎる。子供向けの域を脱しており、中二チックですらある。ふつうに名曲揃いだと思うがこれもまた少しやりすぎの感を覚える。もちろん作曲したクリス・パワーズのセンスも絡んでいるのだろうが。
この映画の世界興収が『ONE』に勝ったのはそのような要因があるからではあるいか。トランスフォーマーコンテンツ自体が一般的に飽きられかけているというのもあるだろうが、ファンへの目配せ的に(それこそロムルスのような)適当な残酷描写をいれた『ONE』と違ってこちらにはそこはかとない悪意や過剰さを感じるのである。
思えばマイケル・ベイ版トランスフォーマーもティーン向けにだとしてもやり過ぎていたが(ゴアであったり性描写であったり)、当時の5歳児達は大熱狂していたものだ。子供はそうした過剰さに敏感に反応するのだろう。この映画の場合、ベイフォーマーほどの過剰さはないものの、子供の心を震わせるに足るヤバさはしっかりと備わっていたようだ。