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ダイキャスト変形映画
トランスフォーマーONEを観る。
監督はトイストーリー4のジョシュ・クーリー。俺はトイストーリー4は未鑑賞なのでどのような監督か知らずにいたが、やはりピクサーで働いていただけあってアニメーションのセンスやストーリー作りは上手い。(かといってトイストーリー4を観る気はないけど)
そしてプロデューサーがご存知マイケル・ベイ神。自分が監督を下りても常にシリーズに関わり続けている謎の人である。多分このフランチャイズを気に入っているのであろう。いいことだ。
ふんでエグゼクティブプロデューサーがスティーブン・スピルバーグ。いやはや、これでハズす方がおかしいという布陣である。
だが俺はあまり期待していなかった。例の如く予告編がつまらなそうだったからだ。
しかし、やはりと言うべきか、ちゃんと面白い。
「コイツ最近そればっか言ってんな」と自分でも思うが、これはどう考えても予告編が悪い。どれもこれも金太郎飴みたいに画一化されていて、想像力の欠片も感じられない代物ばかりだからだ。映画自体はクリエイティブ精神が充満していても、プロモーションのやる気が感じられなければ、必然観客(俺)はそっぽを向くに決まってる。工業製品ではないのだからもっとその映画に相応しい良い予告編を見せて欲しいものである。
閑話休題。
んで、映画はちゃんと面白かった。
なんと言っても尺が短いところが良い。観終わって実は尺が2時間なかったことを知って驚いた。その時間これだけの物量をこれだけの密度で詰め込めるのはプロの所業である。
さらにテンポが詰め詰めなところも素晴らしい。若干唐突感ある展開も無くはないが、そもそも原典からしてそんな感じなので無問題。布石の配置や回収が早いだけで要点は押さえられているため、俺は特に気にならなかった。
そしてところどころに5歳児向けのギャグが挿入されるため、楽しく笑いながら観れる。近くに座っていた小学生くらいの子どもはくすりともしなかったが。(普通逆では???)
また、VFXはビースト覚醒を手掛けたMPCから天下のILMに回帰しており、視覚効果にも秀逸だ。スパイダーバース以降、CGIアニメーションには新たなスタイルが追加されたが、これはどちらかと言うと旧来的なフォトリアリスティックな造形である。劇中のトランスフォーマー達はダイキャストのような質感に仕上がっており、監督がトイストーリーを手掛けていたこともあってか、これがわちゃわちゃ動き回るおもちゃのような手触りや規模感を感じさせるのだ。この特徴のおかげでエピック重視のベイバースとの違いが出て良かったと思う。
さてさて、マイケル・ベイといえば、いつぞやのバッドボーイズの感想を書いた際に「トランスフォーマーはもはやマイケル・ベイのものである」的なことを書いた。これはつまり実写トランスフォーマーではどうやったってマイケル・ベイには及ばないということだ。
過去のバンブルビーやビースト覚醒がその証拠である。あれらの作品はたしかにウェルメイドではある。商業作品としては理想の塩梅で組み上げられた映画だ。
しかしベイフォーマーにあってあれらにはないものがある。
そう、ベイ特有の視覚的インパクト──通称ベイヘムだ。
パララックスを駆使して画面の前後に奥行きを持たせ、更にそれぞれのレイヤーに情報を詰め込むことで人間が知覚できる限界ギリギリのラインを攻めるテクニック──それゆえたまに知覚不能になることもある──が、あれらの映画には不在だった。だからベイ以降の実写トランスフォーマーはどうやったってもベイには敵わないのである。
映画の制作には大勢のスタッフが関わっている。映画監督とはそうした沢山の人を駆使して自分の望む画を撮らねばならない。そうして初めてその監督の作家性というものが表現される。だがそのためには強いリーダーシップが必要だ。そしてベイヘムのような、リドリー・スコットをして「俺にはマイケル・ベイのような画を作る忍耐力は無いよ」と言わしめるほど複雑怪奇な画は、ベイレベルの現場の支配力を発揮できる人間にしか撮影不可能なのである。
つまりベイ以降のトランスフォーマー作品が採るべき方針は、ベイには及ばない作品を撮るか、あるいは別のアプローチを採るかの二択になってくるわけである。
そしてトランスフォーマーONEは、そうしたベイから見事に脱却してみせた作品なのである。
やはりアニメで語ることを選択したのが功を奏したように思う。前述したような、子どものおもちゃのわちゃわちゃした感じが良い効果をもたらしていた。これがベイフォーマーのようなエピックでバロックでブロックバスターな作風だったら成立しなかっただろう。オプティマス(コンボイ)とメガトロンの友情を描くにあたって、異質な金属生命体としての見た目は相性が悪いため、そうした意味でも親しみやすいおもちゃ感を採用したのは正しいと思う。パンフレットにも始めからジョシュ・クーリーを監督に起用するつもりだったことが記されているので、メインのプロデューサーを務めるボナヴェンチュラの慧眼が光った形だ。
また、ベイから脱却したといっても過去作品に対する目配せは怠っていない。トランスフォーマーシリーズには明るくないため、これがロムルスの目配せとどう違うのかはなんとも言えんが、俺はオプティマスの演説シーンでサークルショットが用いられているのを観て、「監督分かってやがる」と思ったのであった。また変形シーンで無駄に動き回ったり、スローモーションを多用するといった演出も、ベイのそれをアニメ調に洗練された形で翻案していると感じた。
そういう意味でベイファン必見の作品でもある。ぜひ観てもらいたい。
ボナヴェンチュラによると、このシリーズは3部作になる予定だそうだ。とするとこれまで実写では描かれなかったオプティマスとメガトロンの和解が見られるということだろうか。あのDOTMの小説版で書かれた「メガトロンが真に改心(トランスフォーム)したのだ」的なセリフ付きで。
個人的にはベイがトランスフォーマー6でやれよという気もするが、今はそれが見れるだけマシと思って首を長くして待ちたい。
なのでみんな観に行け。