古今東西の天才の饗宴: 野田MAP 「Q」
クイーンの名盤「オペラ座の夜」x 「ロミオとジュリエット」x 「源平の合戦」x野田秀樹!
うがが、なんだこのこの古今東西の大好きをごった煮にした感じ。でも、ただのごった煮なわけはない。入っている素材は全て丁寧に面取りし、お出汁もちゃんと引いてあり、お鍋のそばから離れずにじっくりじっくり煮込んである。だから、何とも言えない一体感があるのです。ってもうこれだけでやばくない?!
1幕は、ほぼほぼ「ロミオとジュリエット」を、源平の時代に置き換えてなぞっていました。セリフもかなりそのまま出てきます。でも、出すだけでは終わらないのが野田秀樹さま。例えば、バルコニーで、ジュリエットがロミオに向かっていう、「どうかその名をお捨てになって」という台詞。
平家物語の中で、源平の武士(って言っていいんだっけ?)が、「遠からんものは音に聞け、近くばよって目にも見よ」と名乗りをあげることに代表されるように、当時から、名前はとても重要だった。それが下敷きにある上での「名をお捨てになって」…深い。
源平の12世紀とシェークスピアの16世紀、さらには名を捨てること=匿名性を得ること、とつなげて、21世紀の「匿名性の暴力」も絡めていく。匿名の隠れ蓑の裏で、名のりをあげない争いがあることが揶揄される。なんだこの時空を超えた天才の共演。
だめ押しのように、「名を捨テロリスト」と「名をヒロイズム」の戦いが勃発する。
さらにその時空の行き来を、クイーンの楽曲の数々が彩ります。盛りだくさんすぎて脳内ハレーションがドンパンドンパン起こります。
1幕終わり、ロミオは孤独という毒を飲んで死に、ジュリエットも後を追うように死んでいく。あれ?ロミジュリ終わっちゃったけど、大丈夫?と思っていたらば、2幕は、もしもロミジュリが生きていたら、と展開していきます。そこに、木曾義仲(ティボルト)を打たれた巴御前の、死骸を生きがいにした復讐劇なんかが絡んでくる。
お互い、相手は死んだと思い込むさまは、人情浄瑠璃の「妹背山婦女庭訓」を彷彿とさせる。
こちらね。
そういやこれ見た時に、ロミジュリじゃーんって、言ってるわ、わたし。笑
その後激化する源平の戦いの最中で、尼ゾネス、という尼の集団に紛れ込んで野戦病院で働くジュリエットと、名もない一兵卒になって戦場へ赴いたロミオの運命は、ある戦場で一瞬だけ交差する。
たった5日の愛の日々をなんとか永らえさせようとした2人の努力は、僅かではあるものの、成功したことになる。
そしてその後もお互いを思いながらも、30年が過ぎていく。シベリ野に抑留され、なかなか本土への帰国を許されない、無名兵士となったロミオがどうなったか、ジュリエットは知るよしもない。平氏の兵士は、皆、元から居なくなってしまったの。
30年後、ロミオがくれない手紙をずっと待つジュリエットのもとに、ある手紙が届く。紅ではないその手紙は、まっしろな紙。書かれてあるべきメッセージの冒頭は、「わたしはもう、あなたを愛していない」
その瞬間に流れるのが、”Love of My Life”の、「君が僕にとってどんなに大切か、君は気づいていない」の部分でありました。
あああ、どこまでもどこまでもすごい。クライマックスなんかじゃない、これは明るいマックスだ!ってその通りというか、いやそうではないと言うべきか。
野田MAPにしてはかなり分かりやすかったけれど、掘れば掘るほど金言がじゃりじゃりでてくる舞台でありました。
途中の白いシーツを使った演出がそれはそれは美しいし、壁のあっち側とこちら側を表現した高低差のあるシンプルな舞台も好き。紙ヒコーキモチーフは、絶対宮崎監督の「風立ちぬ」だ。あれこれメタファーが多すぎて困る。
そして… 広瀬すずちゃん!初舞台とは思えない… 恐ろしい子…
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