【記憶とは】 新作ミュージカル 「COLOR」
今は、記憶が戻るのが怖いんです。
バイクの事故で、完全に記憶喪失になってしまった草木染作家・坪倉優介さんの実話を元にした新作ミュージカル。
「体験」としての記憶だけではなく、「食べる」などの日常の行動についての記憶も失ってしまった、美大生の「ぼく」は、食卓に並んだお茶碗に入っている「白くてキラキラ」しているものを、思わず手掴みで食べようとしてしまう。お箸の使い方どころか、お箸の存在も覚えていない。
口に含んだご飯を「美味しい」と思い、「美味しい」って「嬉しい」と感じるという、途方もないほど根っこの感情を新たに体験として学んでいく。
それを見守るご両親の、なんと忍耐のいることか。(涙腺崩壊1)
「自分」とは、「記憶の集合体」である。それがごっそり無くなるとは、本当に怖いことだと思う。だって、周りが覚えている「自分」を、自分だけが覚えていないのだから。
周りの人に「これが好きだったよね?」と言われても、今の自分には「分からない」。好きかも知れないし、そうでもないかも知れない。混乱する。他者から見た自分と、自分からみた自分が別の人に思えるだろう。
それでも、その中から、改めて「好き」を見つけ、その道に進もうと決めた「ぼく」にフルフルした。
事故のきっかけとなったバイクにも、また乗れるようになった。そこから見る景色に、改めて出会い直した。両親も彼がまたバイクに乗ることを、恐怖を押し殺して許した。
出会い直しが、新しい記憶との初めましてになる。
そんな中で、草木染めに進もうとする「ぼく」。
優しい色で、人を笑顔にしたいから。
しかもその色は、一度役目を終えた落ち葉や木の実で染める。まだ木々についている葉っぱや木の実は使わない。
一度役目を終えたものに、また次の役目を持たせて、生き返らせる。
それは、「ぼく」の古い記憶と新しい記憶にリンクする。
なぜ草木染めの道を選んだか、という問いに、「ぼく」は答える。
植物人間と呼ばれた僕だから
今の「ぼく」としての記憶がある中、その前の記憶が戻ってしまったら、今の僕と前の僕は、また混乱してしまうのかも知れない。
「周りの知ってる僕」と「今しか知らない僕」の間でのギャップが生まれたように。
劇場に展示されていた、実際の草木染めのお着物。これは、桜の木の皮から煮出した色。
わたしも、これまでの様々な出会いのキオクの集合体だ。
成河さん、最高だった。原書も読んでみなければ。
明日も良い日に。