【寸分の隙もない余白とは】 「やのとあがつま」 Asteroid and Butterfly Tour 2022
人は思い込みから、なかなか抜け出せないものだ。
例えば、ある物を「これはリンゴだ」と思いこむと、周囲がそれを指差して、「それはバナナだね」と言っても、脳内で「リンゴ」と変換されてしまうことがままある。
先日、とあるコンサートがあった。場所は、いつもの行動範囲外のホール。とても楽しみにしていた。友人も誘っていた。チケットは私が預かっていた。
コンサート会場の情報も事前に共有し、集合時間も連絡した。
抜かりはない、はずだった…
なのに。
なのになのに。
行くべきは、シンフォニーヒルズの方だったのに、こちらのHP上部に記載の、リリオホールへ行ってしまったのだ…
しかも当日、友人がわざわざ青砥の駅に早く着く、と連絡してくれていたのに、私はそれを「あら、私は亀有駅から行くけれど、青砥からの行き方もあるのね」なんて脳内変換していたのだ。
そんなわけあるかーい!と今なら言える。なぜその時に引っ掛からなかったんだ、我。
結果、私は余裕をぶっこき、何の疑いもなく亀有の駅に向かう電車に乗った。
そして到着した亀有リリオホールは閉まっていた… 当日の演目がなかったのだ。
日付を間違えたわけはない。だってさっき友人とLINEしたもの。え?何これどんなお試し?何のドッキリ?
慌てて事務室へと向かうと、事務員さんが教えてくれた。
「ああ、やのとあがつまのコンサートなら、シンフォニーホールです!」
絶望を身体で表すとしたら、その時の私の背中がピッタリだったろう。
何しろ開演まではあと15分。今日に限ってギリギリまで自宅リモートワークだった私のバカバカばか。
「タクシーに乗ったら間に合いますか?!」
「分かりませんが、タクシー乗り場は出てすぐのところです!」
「ありがとうございます!」と駆け出す私。
飛び込んだタクシーのお父さんに、
「法律の範囲内で最大限に急いでください!」
と伝えると、おとっつぁんの目がキラリとしたとかしないとか。
ベテランのおとっつぁんの采配で、信号のない道を選んだ結果…
タクシーで15分と言われていたのが10分足らずで到着し、開演前に余裕で着席できたのでありました。
開演前からドラマみが濃ゆい。
そして本編の「やのとあがつま」は、そんな開演前のドラマ以上にドラマチックでファビュラスな演奏でありました。
アッコちゃんのピアノと、上妻宏光さんの三味線がうねるうねる。民謡meets ジャズ x フュージョン x ロック!
しかも、サポートメンバーに深澤秀行さんが加わることで、テクノポップまで入りこむ!!!
「ROSE GARDEN」や「音楽はおくりもの」といったアッコちゃんの楽曲も、三味線ピアノジャズロックあっこちゃんワールドになっていた。
三味線は、風の楽器。吹きつける対象物を浮き上がらせる、水墨画のような色合いを持つ風。
三味線は、人肌な楽器。血と同じ温度で流れ、付きすぎず、離れすぎず、客観的にこちらの心情を擦って掬ってくれる。そこに摩擦が生まれる。
そこに、アッコちゃんの色が混じっていく。TEAM LABOの、漢字が空から降ってきて、様々な色合いの動物に変わっていく展示を思い出す。
テクノっぽいサラウンドサウンドと相まってそう思ったのかも知れない。
それにしても、上妻さんの三味線のロック魂よ。途中、右手と左手で全く違う音を出していたのだが、あれはどうやっていたんだろう。一人でベースとギターの両方を弾いているようだった。幻聴?いや、違うはず。一曲だけ確実に上妻さんが二人いた。
民謡の歌詞には、生活がある。方言の歌詞だった為、所々しか分からなかったけれど、それでも寄せては返す波の音や、ざわざわと鳴る竹林の雰囲気は伝わった。
日々色んなことがある。それら全て、すぐに思い出になってしまう。
興奮冷めやらぬままに会場を後にして、気づいた。
「ここは、どこでしょう… orz」
タクシーで来てしまった為、最寄りの駅がどこにあるのか検討もつかず…
駅からちゃんと現地入りした友人に、徘徊老人の帰宅支援のごとくに世話になって、帰路に着いた。
毎日何かがあるよね、うん。これも笑い飛ばして… いいかな。いいよね。いいって言って…
明日も良い日に。