438/1000 【お芝居】 劇団チョコレートケーキ 「帰還不能点」
全てを救えないことは、あなたを救わない理由にはなりません
真珠湾攻撃の約半年前。文官、武官、民間機関の若手エリートを結集した総力戦研究所は、南部仏印への進軍の是非を「模擬演習」という形で議論する。そして、対米姿勢についてのある結論にたどり着く。
アメリカと戦端を開いたら、大日本帝国は敗北する。
しかし若い彼らの声は、上層部に揉み消されてしまう。そして、歴史は彼らの結論が正しかったことを証明する。300万人の犠牲者とともに。
自分たちは、もっと声を上げるべきだったのか?もっとできることがあったのではないか?
過去を振り返り、後悔することは人間の常だ。
だが、忘れないことだけでも価値のあることだってある。
震災についてもそう。
戦争についてもそう。
戦争はもう懲り懲りだ。皆にそう思っていて欲しいよ。
真珠湾攻撃へと突き進んだ大日本帝国の意思決定のどこが「帰還不能点」だったのか。
戦後、最近他界した当時の研究所仲間を偲ぶ会に集まった彼らは、会場の居酒屋で、その経緯を検証する。
あの日の模擬演習のようなお芝居仕立てで、当時の内閣のキープレイヤーである近衛文麿の失策である日中戦争の長期化や、外相松岡洋右の三国同盟に対する執着の理由を浮き彫りにする。
教科書のような事実の羅列ではなく、近衛や松岡以外にも東條英機等、他のキープレーヤーの思惑も織り交ぜ、こんな苦悩があったのでは、をもあぶり出していく。
振り返って「あの決断は間違っていた」と言うのは容易い。
その過ちを忘れるのも容易い。
変えられないことを忘れずに抱き続け、これからに繋げていくことが一番難しい。
でも、大なり小なり、そんな場面は人生において山ほどある。
研究所内でも、終戦後に行き場を失った内務省の元エリート、碁会所のオヤジになった海軍エリート、そのまま役人を続けている者、その中でも出世した人、落ちこぼれた者、色々ある。
そして彼らの人生の根底には、あの日声を挙げなかった自分が、自分たちの姿が未だに焼きついたままなのだ。見ないようにすればするほど、記憶は彼らを責め立てる。
それなら、どうやったら避けられたんでしょう
これは過去への問いかけではなく、未来への呼びかけだ。
劇団チョコレートケーキらしい重厚なテーマだけれど、重った苦しいわけではない。今まで以上に笑いもふんだんに盛り込まれている。
群像劇で劇中劇なんて、生み出した作家さんの頭の中は一体どうなってんだと思うけれど、見ている側にはこの構造はとても直感的で伝わりやすい。
できれば生で見たかったけれど、チケットが入手できず涙を飲んでの配信での観劇。
でも、見られて良かった。
あと1週間くらいは見られるようです。
明日も良い日に。