【欲望とは】 東京バレエ団新作グランバレエ 「かぐや姫」
男やもめとして一人暮らしている翁はある日、竹の精に誘われて、赤ん坊を発見する。ポイント1:翁が能動的に発見するのではなく、竹の精霊が彼を選んでる!
その女の子はスクスクと育ち、村の子達と山河を駆け回って育つ。その子供たちの中の道児(どうじ)とかぐやは恋に落ちる。
それに嫉妬した翁は2人の仲を引き裂こうとする。←え。ポイント2
子育てにはお金がいる。それに気づいた竹の精霊たちに再度招かれ、翁は竹の中から小判や着物を発見し、それを持ち帰る。翁が竹の中から宝物を手に入れたのを見て、村人たちはこぞって竹林を刈り始める。金も財宝も手に入らないまま、竹林は完全に伐採されてしまう。
かぐや姫が、現代戦争の物語になっている!ポイント3
その後、入内したかぐやを待っていたのは、「天璋院篤姫」の幾島も真っ青な教育係。お稽古三昧が嫌で、何度も逃げ出そうとするかぐや。
更にさらに!かぐやにとって、味方のいない朝廷には、なんと帝のお妃がいた!み、帝… 結婚してたんかーい。その側室として教育されていくかぐやだが、お妃とのバチバチやら、何やらにたまりかねて、ある日御所を脱走してしまう。
ふるさとの山河に戻り、道児(どうじ)と共に生きる決意をしたかに見えるかぐや姫。だが、道児(どうじ)にはすでに身重の妻がいた…
その後も、村人と朝廷の間の、財宝をめぐる戦争が勃発したり、ギスギスした朝廷内で、少しずつかぐやと帝が心を通わせたりしていく。
結局、目の前の争いに耐えかねたかぐやは、帝夫婦の仲直りを仲介し、翁を許して月へと帰っていく。孤独を抱えたままで。
最後の最後で、昔話の結末に戻ったけれど、その間に描かれていたのは、人の欲望と孤独と愛の物語だった。
当たり前だが、セリフは一切ない。なのに物語はおろか、感情の移り変わりまではっきりと伝わってくる。それは、人に限ったことではない。
1幕で大活躍の竹林の精霊たちの意思だったり、伐採されていく時の痛みだったりまでもが伝わってくる。竹の子たち、マジですごい。竹を見るために、新潟公演に行ってもいい。
3幕の、月の人たちも同様だ。こちらは逆に無感情なのだけれど、だからこそ、この世の人とは思えない存在になっている。月の人たちのために新潟公演に行ってもいい。
2幕のお妃の、人々にかしずかれているのに埋まらない孤独の舞も印象的。このために新潟公演に… (以下略)
村人と朝廷の泥沼化していく戦いの様子は、今のガザと重なった。憎しみの連鎖。かぐやの世界では、彼女の心の叫びによって戦いが止まったけれど、実際のこの世界には、かぐやはいない。だから、私たち一人ひとりが声を上げるしかない。現地の人々の叫び声に、耳を傾けねばならない。
衣装も舞台装置も、とことんまで削ぎ落とされているのに美しい。雪月花のモチーフも、山河の線描も、なんて豊かなのだろう。
プリンシパルの方々ももちろん素晴らしいのだけれど、圧巻だったのは群舞!!!
あっという間の3時間だった。
新たな沼の予感。ヤヴァイ。
明日も良い日に。