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①倒産家族の生活 ~ リアルな生活と正月に届かない年賀状

親の会社の倒産 ⇒ 再生ファンドと「再生される側」「再生する側」両方を経験した立場から、「倒産」について書く第1回です。
長いので、読むのに7~8分かかります。結構気合入れて書きました。
今回、コロナの影響で「倒産」を考える人が増えたと聞き、急ぎ書いています。

悲惨なイメージばかりが語られる倒産と自己破産ですが、実際どのような生活になるかはあまり情報がありません。
「未知が恐怖を生む」「まずは正しく知ること」
今回のコロナ対策で情報発信をされている医師の言葉です。
倒産も同じで、「正しく知る」ことが大切だと考えました。

なお、一連の記事は「分かりやすさ」「リアリティ」を優先して書いています。法的根拠等は参考図書を後半に貼っていますので、ご参考下さい。

↓ 連載に当たって

「倒産=自殺」の勝手なイメージ

「倒産=自殺」
多くの人がこの悲惨なイメージをするかと思います。
しかし、私の父は死んでおらず、今も元気に生きています。
夜逃げも離婚もしていません。
「あんな会社無くなってラクんなったわ」と私は思っています。

鶴瓶さん演じる半沢直樹のお父さんが会社を倒産させ、首吊り自殺するシーンのインパクトもあり、「倒産=自殺」のイメージになってしまったのかもしれません。

自殺するくらいだったら弁護士の先生に相談して会社を倒産させましょう。
会社なんて人間が商売をするために作った器に過ぎず、やがて終わるものです。
祖母が倒産の際に言ってくれた言葉です。

以下、今回参考にしている弁護士の先生の本の引用です。

倒産の勝手なイメージ
・妻、子供の財産まで持っていかれる
・妻に離婚されて家庭も崩壊する
・子供は就職出来なくなり、子供も不幸になる
・借金は自殺して生命保険で返さなくてはならない
・債権者が家に押し掛ける
・住んでいる家を直ぐに追い出される
・選挙権も奪われ、地元にいられなくなり、夜逃げする
・親戚づきあいもできなくなる

このイメージは多くが誤解です。
破産とは借金のある人を救済する最終的な法的手段のことを言います。

たとえば、奥さんが「連帯保証」をしていない限り、債権者が奥さんに返済を求めることはありません。まして子供の就職はクソほど関係ありません。

また、生命保険は契約数年内に自殺した場合は保険金が下りない場合が有るので、死んでも無駄死にです。生きて年金もらった方がトクです。

家は「競売」と言って裁判所管轄になり、売りに出されますが、直ぐに追い出されることもありませんし、きちんと対処すれば住み続けられます。法律上、最低限の家財道具は守られるので、「裸で放り出される」こともありません。

権利については「免責手続」(借金を免除してよいか裁判所が審査すること)という裁判所の審査期間約1年間は制限が有りますが、その後は普通に生活できます。なお、免責期間中、職業上の制限(社労士資格等の制限)は生じますが、選挙権は制限されません。

また、「闇金」と呼ばれる反社会的勢力からお金を借りていない限り、債権者に自宅に押し掛けられるのは数日です。

この本を書かれた弁護士の先生は、
勝手なイメージによって倒産を恐れるあまり、
闇金からカネを借りるなどの無理をして取り返しのつかない事態となる、
自殺や夜逃げに走る、
トンデモな人間に相談、会社を食い物にされる、
そういった事態に警鐘を鳴らしています。
また、多くの経営者が「自分が所属するロータリークラブのメンバーに知られたくない」等のクソくだらないプライドから弁護士に相談せず、最悪のケースに至ることを疑問視されています。当然ながら、破産は裁判所の厳格な審査を受ける手続きですので、安易に使える手段でもありません。

私自身も振り返ってみると、辛かったのは家を取り戻し、手続きが落ち着くまでの1年であり、それ以降はむしろ、「会社なんて無い方がラク」でした。

私の父は会社が傾くと、

・高校生だった私に会社の仕事(株主総会書類作成等)をさせる
・私の学費として貯金していた家の金を会社の資金繰りに使う
・不機嫌になり、家族だけでなく、お店の店員さんにまで八つ当たり

といった行動に走りました。
会社が無くなってくれたおかげで、父は普通になり、家の金を会社に持ちだすこともなくなったので、「会社なんて無い方がラク」だったのです。
ただ、長年支えてくださった取引先と従業員の方には今も複雑な気持ちが有ります。

今は、父が会社を倒産させてくれたおかげで、私が会社を継ぐ必要もなくなり、気楽になってよかったくらいに思っています。
私の知人には親の会社の連帯保証をさせられたり、傾いた家業を継がされているケースもあり、気の毒に思っています。

競争力の無い会社を無理に存続させることは、必ずしも関係者の幸福には繋がりません。
むしろ、弁護士の先生に相談せずに、パニックを起こして勝手なイメージで行動し、自殺、夜逃げ等に繋がることが危険なのです。
家のお金を日常的に会社の資金繰りに使うようになったら、おそらく判断の時期が迫っているのではと私は考えます。

競争力が有り、本当に存続させなくてはならない会社なら、再生ファンドの仕事です。

実際何が起こるのか?

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上記の図の通り、
■会社の倒産
■経営者個人の自己破産
■家族の問題(精神病、生活費、自宅競売)

の3点に同時に対応することになります。

時間軸で見ると以下4つのフェーズになります。
A:準備期
B:トラブル期
C:裁判所手続き期
D:免責完了・解放期

A:準備期
この準備期が重要です。事前に弁護士に相談し、必要な手続き、知識を得ておくことで、会社、家族同時に3つの問題が起きる倒産に対し、パニックにならずに済みます。破産手続きには百万円近い費用(負債額にもよります)がかかるため、その確認もしておきます。(父が会社の資金繰りに使わないように口座を分けた)

B:トラブル期
3か月ほどがヤマです。会社の倒産、父の破産手続き、父の自傷行為(実家が血まみれ)、精神病院入院、自宅に来る債権者から身を守るために母がホテル暮らし、家の片づけ(売られるかもしれなかったので)とかなりシビアな状況でしたが、3か月ほどで状況は落ち着きます。
私個人は就職活動とこの時期が重なったので、大変でしたが…
最前線で会社の処理をした母は立派だったと思います。
父はこの間の記憶がないそうですw(都合の悪いことは忘れるヤツ)

C:裁判所手続き期
粛々と裁判手続きをするフェーズです。ここまで来ると事務手続きの世界です。破産者は裁判所管理下に置かれ、様々な資格制約がある、旅行をしてはならない、郵便物が全て裁判所選定の「破産管財人」の管理下に置かれるので正月に年賀状が来ない等の不便は生じます。なお、手続きの詳細、家を買い戻すプロセス等は別記事で書きます。

D:免責完了・解放期
1年ほどで裁判所の審査も終了し、普通の生活が送れるようになります。免責とは「借金を免除してよいか」の裁判所の審査です。免責されないのは「サラ金で借りた金を競艇や風俗で使ってしまう」「裁判所に黙って逃げ出す」等の「クソみたいなロクデナシ」であり、真面目に会社経営をしてきた中小企業の社長は多くの場合免責されます。

前述のように父が会社に家のお金を持っていくこともなくなり、生活の見通しも立った(年金他)ので、床が抜けそうなくらいボロボロだった自宅を無事リフォームできましたw 父は手続き完了後、普通に契約社員として仕事に就きました。

年賀状が届かないのは個人的には結構印象的で、今でも年賀状が正月に届くとホッとします。当たり前のことは当たり前ではないと正月のたびに思わされます。

なお、上記は私の経験をベースとしています。個人保証のない場合は会社の倒産手続きのみで済んだり、そもそも倒産しなくて済む場合は、民事再生手続きに移行するケースもあるそうです。きちんとした弁護士に早めに相談することがとにかく大切です。(本によれば都道府県の弁護士会が窓口とのことですが、私が実際に窓口に行ったことがなく、実際のところをコメントできず申し訳ありません。)

参考図書

考察:「倒産」のゆがんだイメージはなぜできた?

ここから先は元ファンドマネージャーとしての私の考察です。
先述のドラマの影響もあるのだと思いますが、以下4点と考察します。

①経営者がネット検索という行動をしない
②弁護士の軽視
③相談相手の問題
④失敗は恥

経営者の平均年齢は61.7歳、休廃業、解散企業の社長の平均年齢は69.6歳です。(東京商工リサーチ2018年調査)
総務省調査では60代を境にスマホ保有率はガクッと下がり、「検索のためにネットを使う」比率も下がります。ネットで調べるという行為そのものが、高齢の経営者にはハードルが高いのです。
もし、経営者を支援する立場の方、ご家族がこの記事を読まれていたら、印刷して紙で渡してあげてください。

中小企業の6割は顧問弁護士の必要性さえ認識していないという調査が有ります(日弁連弁護士業務総合推進センター調査)。そのため、困った時に弁護士に相談できないのではないでしょうか。

③中小企業の社長の相談相手は、税理士、銀行、取引先、組合の4つが上位という調査結果(大同生命)が有ります。
銀行や取引先は会社がつぶれてもらうと困るので、「社長、会社清算しましょう!」とあまり言わないのではないでしょうか?

「俺会社倒産させてさー!」と飲み屋や床屋で大声で話す人はいません。特に地方では「失敗は恥」ですので、仮に倒産を経験しても自ら話す人はマレでしょう。

個人的には「会社を無理に存続させるな」というメッセージを発することが大切な時代に入り始めたのではないかと考え、この記事を書いています。
むしろ「失敗した経営者の話をスタートアップの経営者に聞かせる」くらいのフトコロのある社会であってほしいと思います。私自身が経営者になるときは、「元中小企業の社長(失敗した人含む)」を社員として迎えたいと考えています。

次回にむけて

次回は、「親を殺さない方法」です。
第3回は個人保証について、第4回は家族についてです。
私の父も自殺を口にしていましたが、「死んでも経済的メリットのない」状況を家族で作りました。自殺と経営者の関係についても書きます。

家のお金を会社の資金繰りに使うほど状況が深刻でない会社のコロナ生き残り策は以下の記事です。

お願い

私の実体験から始めた以下の取り組みですが、2ヶ月経って、協力したい!と言ってくださる大人の方は増えているものの、肝心の高校生や大学生からの相談はまだありません。(当初の予想通りと言えば予想どおりなのですが・・・)教育関係の方がこの記事を読まれていたら、是非拡散をお願いします。


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