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芥川龍之介「山鴫」

ノートパソコンにKindle for PCを入れたので、読みやすさを試すために、芥川龍之介の短編をいくつか読んでみた。
「尼提」「白」「るしへる」そして「山鴫」

背景はスマホやタブレットで読むのと同じく黒にした。全画面にすると紙面があまりに巨大に思えたので、ハードカバーと同じくらいの大きさに調整し、かつフォントは紙の本より大きくした。これでだいぶ読みやすくなる。ページめくりのボタンが自分の感覚とは逆なので最初は慣れなかったが、読み進めるうちに気にならなくなった。

各端末Kindle比較

携帯性 スマホ>タブレット>ノートPC
読みやすさの調整 ノートPC>タブレット>スマホ
本文内容 スマホ=タブレット=ノートPC=紙


それはともかく「山鴫」。
1880年、トルストイの元を訪ねたツルゲーネフが、トルストイ夫人や子どもたちと山鳥を撃ちに行く話。ツルゲーネフ六十二歳、トルストイ五十二歳。読んでいる最中のイメージでは、年齢は逆だった。

若い頃に熱く議論を戦わせたのは昔の思い出。狩りの最中の二人の会話は、互いへの皮肉とマウント取りに終始してしまう。そんなことをツルゲーネフは悔しく思いながら、狩りでも遅れを取る。先に仕留めたトルストイに次いで、ツルゲーネフも一羽を落とした。落としたのだが、死骸は見つけられなかった。猟犬にも、トルストイの子どもたちにも。トルストイには「マジ殺ったの? 嘘ついてね?」みたいな態度を取られる始末。

トルストイ宅に帰った後で、二人は近頃の小説の話などをする。ツルゲーネフがモーパッサンを勧めるが、トルストイは熱心に聞く素振りを見せない。トルストイ夫人が、先ごろトルストイ宅を訪ねて食糧を置いていった風変わりな男の話を始める。彼の名はガルシン。当時二十五歳、「赤い花」「四日間」などを著したが、わずか三十三年で生涯を閉じ、作品は二十ほどしか残されてはいない。

トルストイ夫人からガルシンの名が出た時、私の中の時間が一気に十五年ほど巻き戻された。福武文庫版「ガルシン短篇集」の表紙が脳裏に浮かぶ。トルストイをよく読んでいたのがその辺りだろうか。ガルシンはそれより前かと思う。「山鴫」を読んでいる最中、既にそれが芥川の手になる作品というのを忘れてしまっていた。精神病を患い、数少ないながら印象的な作品を残したガルシンに、芥川は自分と共通するものを見たのだろう。大作家二人の会話に登場させるほど。

※ウィキペディアでガルシンの項目を読んだら、「太宰治が傾倒した作家」と書かれていた。ガルシンがいなければ太宰や芥川の作品は生まれなかったかもしれないし、自殺しなかったかもしれない。

翌日、二人が和解する挿話があり、後味は悪くない。
芥川の書いた二人の作家の肖像は、実録のように「ありそうな二人」として書かれている。

芥川、
トルストイ、
ガルシン、
再び芥川、

時がぐるぐると回る。これまでの読書人生の節々でロシア人作家が折に触れて現れる。ガルシンや芥川の亡くなった年齢をいつの間にか超えている。何も残せないままに。
ツルゲーネフの作品を読んだ記憶がないので触れられない。


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