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今村夏子「父と私の桜尾通り商店街」
慣れない親類の子守りを任されたら失態を犯し、精神的致命傷を負う「白いセーター」。
自分の部屋にある子ども用人形の由来を友人になったベトナム人に打ち明ける「ルルちゃん」。
なるみ先輩が昔チアリーダーのエースになれたのは、ひょうたんの中の七福神を飲み込んだために痩せたからだった。「ひょうたんの精」。
かつて働いていたスナックのママの誕生日を、三人の元従業員が祝うために集まる。みんなクビになっていたし、乳首やヘソをママに取られた過去がある。三人は働いていた時期がバラバラだが何だかんだ話は盛り上がる。「せとのママの誕生日」。
工事現場のマンホールの下ではモグラハウスの建設が進められている。「モグラハウスの扉」。
店を畳む決心を父がした途端に娘が作ったサンドイッチが思わぬ売れ行きを示したために……「父と私の桜尾通り商店街」。
といった短編が収められた短編集。
「せとのママの誕生日」を読みながら笑っていた私だが、初出誌「早稲田文学増刊 女性号」の担当をしていた編集者はいったいどんな顔をしてこの原稿を読んだのだろう、というところまで考えてしまった。人によっては激怒しかねないだろう。この一編を巡って編集部内で血みどろの殴り合いの喧嘩とか起こらなかっただろうかとまで心配になった。
二人はもくもくとママの体に食べ物を並べていった。ママの顔は起伏の少ないのっぺりした顔なので、基本的にはうまくのせることができた。凹凸のある場所に置く時は、ピーナッツバターで土台を作ってからその上にのせた。一か所に数種類の食材が重なることもあった。たとえば酢コンブの眉毛の上に枝豆がのせられ、その上にお好みソースが絞られた。アリサが右の頬にハムをのせ、カズエが左にトマトの輪切りを置いた。ピーナッツバターをたっぷり塗ってから、アリサは冷凍のぎょうざを貼りつけた。
あっという間に刊行されている今村夏子作品を読み終えてしまいそうな勢いだ。これはもったいないと思う。そう思いながらも読む。
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