取り木をやってみた
それまで中々実をつけなかったが、前年の冬前に剪定をし、翌年の春には順調に新芽をつけ、ゴールデンウィーク頃には待望の結実もし、今年は久しぶりに実が取れるかな、と期待していた、拙宅の杏子。。
ところが、実をつけて間もなく実から葉から、一斉に萎び始めて株全体が枯れるという事態に。。。
三年前の出来事である。
いてもたってもいられず、ネットから本から、手持ちの資料を調べまくって、経過が酷似している杏子に顕著な病害として、『幹芯腐病』なるものではないかと推定するに至り、、、
とりあえず、トップジンM水和剤を梅と同じ希釈濃度で散布するも、時既に遅し。
曾祖母が愛情を込めていたであろう杏子は、三代後の世代の、素人の付け焼き刃の『手入れという名の虐待』によって、無残にも枯れる、ということに相成れり。
私が樹木に関心を持ったのは、あまり庭に関心のない祖母の代になって、祖父は鬼籍に入り、一人残った祖母の世話をするために祖母と同居し始めて間もなくの、これまた曾祖母の代から世話をしていたであろう、古木のウメが、アメシロの大量発生により丸坊主になってしまったことでした。
そこで、初めて樹木への関心を持ち、大学受験の際には必死で生物を学んだこともあって、ある程度の予備知識もあり、アルバイトで植木屋にお世話になることあったりと、『にわか素人園芸家』の道を歩み始めるわけです。
樹が枯れる、ということを話し出すと、プロの造園家とか植木屋というのは、大抵『樹を枯らすのは人間』と素人の軽率な手入れを頭ごなしに批判する傾向は確かにみられます。
しかし、それは適当ではありません。そのことに関して一部は正解ですが、全部ではありません。既述の通り、アメシロが大量発生し、当年の葉を食い尽くし、株全体を衰弱させるのは、観察を怠けた、という点に於いては人間の責任を追及することも出来ましょうが、元凶はやはり食害した虫でしょう。自生種ならば、たとえばアカマツは、マツ材線虫によるアカマツの大量枯死などは、人間が予想して対処するのには限界がありましょう。対症療法にならざるを得ない。
従って、『樹を枯らす原因は人間』というのは、すべてに於いてあてはまることではありません。
話が逸れました。
しかしながら、今回の拙宅の杏子に関しては、ほぼ確実に、『人間』つまり、私のことですが、その失敗、責任と言えるでしょう。
アンズはウメの仲間ですが、剪定や病害への耐性はウメより弱く、特に菌類にはデリケートなようです。ウメでは、菌が侵入してサルノコシカケのような子実体を形成しても、それすら風流であるような逞しさを見せますが、アンズはそうはいきません。
何なら、当年の新芽が吹く際の傷ですら、腐朽菌の侵入口となってしまうデリケートさ。
知っていたなら、剪定直後に消毒していたことでしょう。
知らなかったから仕方ない、というのは、自己責任の素人園芸でやるにしてもあまりに軽率です。生き物を相手にしてる、という自覚を持たねばなりません。
既に遅すぎたとは言うものの、当該の資料に従って、観察をし、樹皮が木部と隙間をつくってパカパカしてしまっていたので、それを剥がし内部まで見てみると、資料の通りに、樹皮内部まで菌が蔓延っている状態で、これにトップジンM水和剤を散布、かつ、水和剤を混合したカルスメイトを保護膜として塗布、幹焼けを回避するため、緑化テープを巻いて保護、という対症療法を取ったのでした。その時撮った写真を載せようと試みたのですが、中々見つからず、見つかり次第アップしようと考えております。
いずれにせよ、自らの勉強不足が招いた事への尻拭いくらいはしようと抗ってはみたのですね。無駄とは分かりつつも、、、
ただ、主幹から樹冠に向かって伸びる主枝は悉く枯れてしまったものの、ひこばえがワサワサと吹きはじめたのです。これが、二年前のこと。
株全体を元通りにするのが無理なら、このひこばえをどうにか生きながらえさせる他ありません。
しかし、枯れてしまったとはいえ、既に太い主幹が成り立ってる株のひこばえを育て、主幹とするのは難しいでしょう。なにより、残った枯れた主幹をのこしたまま育てても見栄えが悪すぎる。
主幹を地際で切って、、という方法もあるのでしょうが、ひこばえの生え際は枯れた主幹と同じ範囲を共有してるので、伸長はしても肥大成長はあまり期待できない。
そこで、素人ながら、はじめて『取り木』に挑戦してみることに。
やっとこさ、本題と相成れり(笑)
相変わらず前置きが長すぎる(汗)
人工繁殖の中で有名なのは、挿し木と接ぎ木でしょう。取り木は名前すら知らない人も多いでしょう。
取り木というのは、挿し木のように適当な枝を切り取って培地に移してから発根を待つ、というのではなく、『元となる株で発根させてから別の培地に移す』というものです。
樹が頑張って発根するまでにかかる時間が読めず、確実に発根する保証は無いにしても、一度発根してまえば、移植の成功率は高い、ということで、一部の挿し木の成功率が低い樹種に於いては、非効率な繁殖法ながらも採用されるようです。
アンズはその一部の樹種に含まれます。よって、今回取り木を採用したのです。
アンズの人工繁殖は、挿し木の成功率が低いことから(それでも絶対無理とは言えないでしょうが)、接ぎ木と取り木が専らのようです。
接ぎ木の場合、近縁種の梅を台樹にすることが多いようです。植えた曾祖母は既に居ないので、この、私が『枯らしてしまった』アンズが、接ぎ木苗であるかどうかを教えてくれる人はおりません。ひこばえの様子から推測するしかありません。
しかし、見たところ他に植えてあるウメの葉や樹皮と比較すると、『純粋なアンズ』である可能性は高そうに思いました。
まぁ、ハズレであっても、やるしか無いのですがね(笑)
というわけで、取り木をかけるのにベストなゴールデンウィークあたりを選んで、取り木を実施しました。
なお、『取り木をかける』とは、手法は大同小異なれど、まずは元の株で発根させるために必要な第一段階の処置、のことを指します。
取り木は、挿し木と違って、始めてから終わるまでの期間が長いです。よって、『取り木をする』というのは、『取り木にかける』ことに始まり、無事に発根し、適切な移植時期を見極めて元の株から切り離して移植し、移植した新たな培地で無事に根が活着するまでの一括りを成功させてはじめて『取り木をした』と言うことができましょう。
やはり前置きが長いようです。癖なので勘弁して下さい。
このようなグダグダな経緯でもって、初めての取り木に挑戦したのです。
で、驚いたことに、取り木にかけてから一週間ちょっとで早速発根が見られたのです。その写真が下!
もう何というか、感動しかありませんでした。
しかし、ここで一つ問題が、、、
『発根したは良いけど、いつ切り離すのがベストなのだろう?』ということです。
私はここでまた失敗しました。
というのは、発根したのは良いが、根が段々褐変し始めたのを見て、根が枯れ始めた!完全に枯れる前に早く移さなきゃ!!と焦りまくってしまったのです。
一度発根したら成功率の高い取り木ではあるものの、絶対失敗しないというわけではありません。
そこは、ネットでも本でも調べてみましょう。そして、失敗の原因は大抵『焦る』ことだそうです。予め読んで納得してたはずなのですがね。座学は経験には及ばないようです。
いずれにしても、生まれたての赤ん坊みたいにつやつやな根は、時間が経てばいくらか色は変わるもの、あまりにもそれが酷いのは恐らく他に原因がある。
それはシンプルに、水苔でくるんだ取り木株の水不足でしょう。
私ははじめての取り木に於いては、メネデールの希釈液に丸一日水苔を浸けて、水を吸わせてから取り木にかけました。しかし、長く吸わせても、取り木にかける際には、ある程度水気を絞った方が発根しやすいということで、結局遅かれ早かれ水切れをするものなのです。
だから、雨水が入りやすいように、くるんだ袋の上側は開けておく方が良い、と言われるのです。
もし、雨が中々降らないなら、灌水してやればよい、それだけのことなのねす。それがわからないものだから、焦ってしまう。
結局、焦りに負けた私は、何の根拠も無く、ゴールデンウィークに取り木にかけた取り木株を5月の終わり頃に切り離して鉢に移し替えたのです。
何の根拠も無く、とはいうものの、移植時期としては最悪な真夏は避けるべきだというのは分かっていたので、とりあえず梅雨入り前にやっておこう、ということでもあったのです。
まぁ失敗は失敗なのですが。
そして、もう一つ失敗してしまいました。
それは、移植にも通じることですが、『移すときにはある程度の剪定が必要』という何とも曖昧な予備知識による、あてずっぽうな剪定をしてしまったことです。
やはり、樹を枯らすのは私のようないい加減な人間のようですね、、、。
移植前に剪定をする人が、何なら本職の造園業者さんにすら見られることですが、しばしば移植前に剪定をすることがありますが、正直申し上げて疑問です。少なくとも、『どんな根拠を以てそれだけ枝葉を落としたのですか?』という質問に納得できる根拠を以て答えられる人は居ないのではないでしょうか。
よく、葉は根の広がり具合に合わせてつける、と言われます。
が、移植に際して切り詰められて減った根の量に対して、適切な葉の量なるものを、果たしてその場だけの状況でどれほど正確に判断できるというのでしょう。
これは、移した後に大雑把に剪定するのもまったく同じです。
私の場合、これが仇となりました。
ここで、切り離す予定の取り木苗全体の写真を撮っておくのを忘れてました。
当年性でワサワサと新葉が繁った元気なひこばえ、だったのは間違いありません。
移してから4,5日は特に問題無かったと思いますが、それからほどなくしてすべての葉が褐変。。
移植後一週間ほどですべての葉が落ちました。
2度目の失敗です。
自らの判断ミスとはいえ、流石に堪えました。
生きてる樹ならば尚のこと、あてずっぽうな剪定をして、傷口をつくることは、これから根を増やそうとしてる株に対して、余計な仕事を増やすだけです。傷口の修復にはエネルギーが必要です。しかし、移植後間もない株は、根がまだ活着していないので、満足に養水分を吸収できる力が無い。
加えて、既述のように、アンズは傷に対してデリケートです。お呼びでない菌を呼び寄せるだけで、百害あって一利無しなのです。
完全に失敗しました。
移植後二週間ほどで、移した取り木苗は、丸坊主になりました。
そこからは神頼みです。まだ生きててくれよ、と願いながら、毎日メネデール希釈液を全体に散布しつつ(これもあてずっぽうなのですが)、水やりをしました。
ダメ元でやってきた結果、なんと新芽が吹きました。
それがこれ。
植物の逞しさは想像以上です。
ここまで、アンズの人生(?)を疎外してきたのは私自身に他ならないわけですが、アンズはそんな飼い主に恵まれない中でも終ぞへこたれることはありませんでした。
見事という他ありません。
さて、このアンズの最後の献身を、3度目の正直で生かすか、二度あることは三度あ~るで、終えるのかは、やはり、私次第のようです。
経過を追っていくこととしましょう。
今回の失敗で得たことは以下のようです。
・殊、アンズに関しては剪定は慎重に行うこと。アンズの場合、花付きや結果量を優先して、CODITモデル(注1)の原則に則った剪定がしにくい場合が多い。即ち、BBRやBBCを意識した切り戻しではなく、適度な長さに詰める切り詰めも必要になることがあるので、そのような場合には防菌消毒も常に行うなど配慮する。
・取り木にかける際は、暗所を作るために、出来れば遮光性の高い黒のビニールや、取り木専用のツールを使うと尚良い。
・取り木では『焦ってはいけない』
・特に落葉樹では、切り離しは、落葉期まで待つくらいで良いと思われる。その間に乾燥しきることのないよう、観察は当然として、適度な灌水は怠らない。
・移植についても同様であるが、鉢上げ等の移植の前後であてずっぽうな剪定はしない。じっくり時間をかけてするなら、移植予定の前年に若干強めの剪定をしておくとか、長いスパンで作業をするとかの準備をすれば良い。
・そうであっても、移植後に葉が萎びて、中には枯れるものも出てくるだろう。そういうときになってはじめて、枝を切るのではなく、摘むようにして葉を除くのが、取り木苗には最も負担が無い方法として適切と考えられる。
こんなところでしょうか。
念のためお断りしておきますが、今回の経験でのことは、私自身が経験した一つの出来事に過ぎず、また、その失敗から得た教訓も、私自身の独断と偏見によるものに過ぎません。
この記事を元にして同様の作業をされて万一損害を被ったとしても、私自身がその責任を負うものではございません。植物は生き物です。人間のように喋ってもくれません。必ず、思い通りの結果が得られることでもありません。そこは、よくよく理解して園芸を楽しむことを強く推奨いたします。
そして、それこそが園芸の楽しみであるというこだと、私は思っております。
冗長が過ぎる長文、最後までお付き合い下さりありがとうございました。読んでくれる人がいれば、の話ですけども(^^;)
注1 CODITモデル⇒ 米国の林業家である、アレックス・シャイゴ氏が、長年の実験に基いて提唱された、樹木の剪定に関する一定の傾向をまとめた理論。後に続く、BBRやBBCというのは、それぞれ『ブランチカラー』、『ブランチバークリッジ』の略字。すいません、この略字に関しては間違ってるかもしれません。いずれにしても、これらをキーワードに調べれば比較的容易に参考文献は見つかることと思われますので、興味のある方は是非。
ではでは、ごきげんよう。