ユーザー、チーム、プロダクトと向き合えているか〜アジャイルなプロダクトづくりを読んで
アジャイルなプロダクトづくり
カイゼン・ジャーニーから始まり、正しいものを正しくつくる、チームジャーニーなどアジャイルを起点にしたものづくりについて数多く執筆してきた市谷さん。
最新作はその名も「アジャイルなプロダクトづくり」。これまでの市谷さんの発信の集大成的なものを感じさせるタイトルであり、しかも久しぶりのストーリー形式の1冊ということで、出版を心待ちにしていました。
一読を終えての感想としては、「不確実性をともなう(≒新規性のある)プロダクトづくりに関わる人はロールに関わらず読んでほしい」です。このnoteではそのおすすめポイントを紹介します。
なお、本書については著書の市谷さんからご恵贈いただいています。(普通に予約してたから、出版社から届いてびっくりした!)
チームの再構築とプロダクト探索の旅
第1部は改善探索編、第2部は価値探索編と題されています。
第1部では、一見うまくいってそうだけれど、安定ではなく停滞に陥ってるチームがユーザー、チーム、プロダクトと向き合うまでのストーリーを軸に進んでいきます。
ファイブフィンガー問題、目の前のものへの最適化、アクション出しが目的化したふりかえり。
プロダクトづくりという題の本にしては、ずいぶんとプロセスにフォーカスしたところから始まります。これはなぜかというと、自分たちが前進するための基盤となるプロセスが整わないことには、良いプロダクトづくりなど叶わないからです。変化を受け止める基盤が、変化にてきおうする余白がなければとてもプロダクトなど作れない。そのためのベースづくりが、第1部の主題だと感じました。
第2部ではいよいよ価値探索を行っていきます。仮説検証サイクルを回すための実践的な方法がかなり丁寧に解説されており、これまでの市谷さんの著作と比べても濃密なものになっています。
そして、並行するストーリーでは…仮説検証の難しさがつきつけられます。実践的なプラクティスを紹介しつつ、「これをなぞっていればいいプロダクトができるわけではないよ」というメッセージが感じられます。でもそこに悲壮感はない。仮説検証はうまくいかないもの。そこから学ぶもの。頭の中の理想と現実の顧客のギャップを理解していきます。
時に、インタビューしている顧客だって、ど真ん中の存在ではないことに気づいたりする。そんな仮説検証のリアルが刻み込まれているのが、第2部です。
変化を起こせるのはハンドルを握った者のみ
本書のエモーショナルなストーリーの中でも、特に印象的なのがこちらのセリフ。
「私たちのアジャイルを再開しよう。」
詳しくは本書を実際に読んでいただきたいのですが、このセリフには様々な気持ちが込められています。
再開する。ということは、これまでは止まっていた。
再開する。ということは、かつては「私たちのアジャイル」をやっていた。
アジャイルなチームづくりをして、プロダクトをつくり、自分たちでハンドルを握りながら進む。ユーザーが増えたり、チームの仲間が増えたり。様々な変化の中で、自分たちの意思ではコントロールできないものが増えていきます。
そうした変化へ適応していく中で、ともすると自らのハンドルを手放してしまうことがある。スクラムという強力なフレームワークは、プロダクトバックログ、スプリントバックログという「つくるもの」を強制的に明確にする力がある。一応は自分たちでコミットするわけだからハンドルを握っているような気がしているけれども、実はそのバックログはどこかからやってきたもので、その枠の中で小さく主体性を発揮していたにすぎない…。そんな経験をもつチームはけっこうあるんじゃないでしょうか。
「改善探索」から始まる本書は、そうした「最適化のための最適化」の隘路に陥ったチームが再び「我々はなぜここにいるのか」を取り戻し、プロダクトづくりという価値探索の森へと旅立つことを力強く後押ししてくれます。
「別に、いまのチームでそんなに困ってないんだよな」
そんなふうに思っている方にこそ、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
あわせて読みたい
市谷さんがこのような投稿をされていました。
探索のまえに、何を何のために探索するのか、どうやったらたどり着いたと言えるのかを明確にしておくことは大切です。なので、ぜひあわせて「アジャイルチームによる目標づくりガイドブック」もお読みください!