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走れ、僕の世紀末。
僕たちは、ずっと無意識に”生きる”か”死ぬ”かの二択の選択にさらされ続けているのだと思う。それはどんな些細なことでも、”死ぬ”ことなんて絶対に考えられない状況でも、どんな突拍子もないことでも、必ず、”生きる”か”死ぬ”かの選択にさらされ続けているのだと思う。
僕がなぜ突然そんなことを思ったというと、今、世紀末を感じていることと、僕の目の前に新しい家族ができたからだ。そいつは澄んだ目に色白な肌、少しだけ体格の良さが伺えて、頭に地球を吹っ飛ばすことができる爆弾が入っている。額には出鱈目な時間が表示されている。
どうして、こんな奴が僕の家族になったのかはわからない。強いていうなら、数日前に「面白い友達が欲しいなあ。」と晩御飯の最中に家族の前でこぼしたくらいだ。
確かに面白い。突然連れてきて、新しい家族として迎え入れること自体おかしいのに、それに加えて、開口一番
「僕の頭には爆弾があって、爆発すると地球は吹き飛びます。額のタイマーがゼロになったら爆発します。」
だ。こんなの面白くないわけがない。というか、ふざけすぎている。なぜこんな奴を突然家族に迎え入れる意味がわからない。父親は、「面白い友達欲しいっていうから、取ってきたぞ。」とよくわからないことを言っている。取ってきたということはなんだ、誘拐でもしたのか。母親に関しては、なぜか温かく迎え入れ、今はやっている”バーチャルライフ”というアバターを作り、仮想空間で自由に過ごせるゲームを買い与えていた。ちなみに僕はそんなもの買ってもらったことなんてない。
何よりも恐ろしいのは、二人ともこの頭の爆弾に関しては何も恐れていないのだ。むしろ、あいつにいいものを買い与えたり、いいもの食わせたり、何不自由ない生活をさせている。
爆弾を恐れていないのは、親以外も例外ではない。僕の通っている学校の生徒たちは、授業中、休み時間、登下校中、ずっとバーチャルライフをやっているにもかかわらず、あいつがきた途端、みんなチヤホヤしだし、なぜか頭を撫でる文化ができた。どうやらあいつの頭を撫でると、神様からの啓示があり、次の新世界へ導いてくれるとかくれないとか。何やら新興宗教の教祖様みたいになってきている。
教師たちも、あいつには丁重に扱い、特別扱いしていた。それは頭に爆弾があって、それが爆発しない様にするためではなく、むしろ頭の爆弾があるからこそ、優秀な生徒、特別な存在として扱っているのだ。教師たちの間では
「いいんだ。彼には爆弾があって、特別だから。」
という言葉が口癖になっていた。
あいつの頭に地球を吹っ飛ばす爆弾があるからこそ、みんな、あいつのことを特別扱いをしている。
前に一度、面白かったのは、あいつが少し走った時、出鱈目のタイマーが出鱈目に早くなったのをみんな見て、一斉に止め始めたのだ。まるでドリフのようで面白かった。なんだかみんなが一生懸命止めてる姿が、「志村、後ろ後ろ!」言っている様に見えた。みんな、爆発すること自体は怖いんじゃないのか?。
それでも、あいつが来てから、学校中お祭り騒ぎで、こいつを担ぐための神輿ができるくらいになっている。はっきり言って異常だ。こいつの頭には地球を吹っ飛ばすことができる爆弾があって、額にあるタイマーは出鱈目を表示している。要は、いつ爆発してもおかしくない状況じゃないか。
僕はあいつがきてから常に、”生きる”か”死ぬ”かの選択を迫られている気がしてならない。と同時に、僕は、常に”生きる”か”死ぬ”かの選択を無意識の中でしているのではと思う様になった。
それは死の要素がかなり強くなっているからなのだろうか。1番の死の要素であるあいつが身近に来たからこそ、生死の意識が高まり、周りの人間の高揚した雰囲気、いや狂った空気に反応してしまっているのだろうか。それを僕は世紀末と感じているのだろうか。だとしたら僕の世紀末感は今、ものすごく高まっている。
ある時、学校のみんなが現実から離れ、バーチャルライフに勤しんでいる中、あいつが教室にやってくると、ゲームから離れてあいつの周りに群がり始める。
「やった!爆弾が新世界に帰る日はもう近いのか!。」
「現実はもはや非現実!血みどろ血みどろ!!。」
「ピョーーーーーーーーー!!!。」
周りの人間たちは気狂いになってしまった。そんな中、僕の両親もなぜか学校に来ていた。父親はスーツの中にパジャマと野球のユニフォームのズボンとスニーカーを履いていた。母親は割烹着に魔法少女のコスプレをしていた。
そんな両親はあいつに
「世界の政治経済も、何もかも崩壊するんだよね!全ては崩壊するんだよね!。」
あいつは、にっこりと笑ってこういった。
「いや、ただ何もなくなる。地球が吹っ飛ぶんだ。本当の世紀末なんだ。」
周りは最近までのお祭り騒ぎだったのが、まるでどこかへ行ってしまったかのように鎮まり、やがてざわめきに変わった。そのざわめきは人々の隙間から見える窓の向こう側まで聞こえた。地平線の向こうの向こう側まで。
やがて人々は発狂し始めた。
僕は、本当に気狂いになってしまった人々の中から、あいつを見つけ、手を掴み学校を抜け、走り出した。
どうして走ったのかはわからない。ただ、体が前に進めと言っている気がしたから、走ってみた。
あいつの出鱈目のタイマーは出鱈目に早くなる。それは、周りの疾走した景色と連動して早くなる。それを見るたびに、景色は徐々に崩れ始めていく様に感じた。それはどこか待ち望んでた様にも感じたし、それは僕の足をより前に進めてくれた。そこには、世紀末の恐怖はなかった。
僕は息を激しく漏らし、生命のガスを外気に逃している。と同時にその生命は世界に満ち満ちている様に感じた。生きている。僕は今ものすごく生きていて、地球は今ものすごく生きている。
僕は声を出すのもやっとの中、思いっきり声を出した。
「ねえ!その爆弾はいつ爆発するの!!。」
あいつは、僕を圧倒する声で言った。
「今!!。」
その瞬間、閃光が目の前を包んだ。
それでも僕は走るのをやめなかった。真っ白の閃光の中を駆け抜けている。
数秒経った後、閃光はなくなり、光の粒子たちが散らばる暗闇の中に飛び込んでいた。僕の体は肉片だけになり、そこに地球はなかった。
駆け抜けていた足や、ものを見ていた目、聞いていた耳はなくなり、ただの肉片が宙を漂っている。
ゆらりゆらりと漂う中、僕はちょうど太陽系を見る機会があった。そこには地球の部分がポッカリあいた太陽系が目の前にあった。
もしかしたらあいつは、僕の居場所を作るためにいたのではないのか?
ポッカリと空いたその大きな場所は小さい肉片の僕にすっぽり入るように感じた。
正直、何が正解かわからない。選択が正しいのかわからない。今生きているのか死んでいるのかすらわからない。ただ、僕はあいつが作ってくれていた居場所があって、僕はそこに肉片として存在している。
存在しているからこそ、僕はまだ選択し続けなければならないと思うと、少し億劫になった。