動物から考える日本の暴力構造③後半 壁を打ち崩すために 【ゲスト:アニマルライツセンター】
*前半の続きです。
なんで日本はアジアの中でも遅れているの?
関 わたしは今年、台湾に行く機会があったのですが、台湾ではヴィーガンレストランもたくさんあるし、どのレストランに行っても1品は必ずヴィーガン対応のご飯がありました。さっき、韓国とタイはブロイラーの飼育面積にちゃんと法律があるという話もありましたが、欧米だけではなく他のアジアの国と比べても日本は遅れているんだと驚いています。それにはいろんな理由があると思うんですけど、なぜでしょうか?
岡田 まず、タイ・中国は特に、海外に畜産物を輸出したい国なんです。そうすると自ずとアニマルウェルフェアを国際水準に上げていく、むしろそれをビジネス的に活かそうと思ったらより高いアニマルウェルフェアをめざしていかざるを得ない。なので、生産者自らアニマルウェルフェアに関心をもって、自分たちで水準を上げていく努力をするというループに入っている状態です。
韓国だともともと畜産法というもののなかに飼育面積の規定がありましたし、かつ、EPO (European Patent Office:欧州特許庁)を結んだのは非常に大きかったと思います。日本よりも早くEUと貿易規定を結んでいるわけですよね。そういった影響もあって、ケージの飼育面積の最低面積をEUと同じにするような流れになっています。
あと、韓国では、卵からフィルロニルという農薬が検出されるということが一時起きたんです。そういったこともあって、ちゃんアニマルウェルフェアに配慮し、薬剤に頼らない畜産をやっていかなくてはいけない、という気運も高まっていると分析しています。なぜ韓国はもともと畜産法でやっていたかというところまではわからないんですが、むしろ、なんで日本にはなんでないんだろう、と考えたほうがいいかと思います。作って当たり前のことだったはずなのに、やってこなかっただけなので、他の国のほうが普通で日本がおかしいと思ってもらったほうがいいかなと思います。
生田 もともと台湾も韓国も肉食文化で、畜産があったという影響はあるんでしょうか?
岡田 それもあるのかもしれないですが、なぜ日本がここまで整備してないのか、というほうがちょっと・・・。基本的に日本は海外に畜産物を輸出しないからかなり閉鎖的である、というところは大きかったと思います。
後回しにされちゃう畜産問題
——わたしは「肉食は健康に悪い」というような理由で動物問題を広めるのは極力避けてたんですが、「動物問題は健康問題でもある」という観点から当事者意識を持ってもらうことはありかなと思いました。前回の座談会で、ブラックヴィーガニズムという、貧困層の多いアメリカのアフリカンの方たちが健康被害への対抗策としてヴィーガニズムを打ち出す運動をしているのを見たんです【*https://note.com/dontoverlook_ha/n/n5b96914d0b47】。岡田さんも、薬剤耐性菌の話をよくされてますけど、肉食だと健康被害があるというところから、「こんなもの食わすな」という当事者運動にしていく流れもありうるかもしれない。
岡田 使えるものはなんでも使うということが必要な状況ですね。「肉を食べたい」という欲求は本当に強くて、ものすごい大きな壁がある。その壁を打ち崩すためには亀裂を入れることが必要ですから、この亀裂は環境問題であっても健康問題であっても、なんでも構わないとわたしは思ってます。亀裂が入った後、その壁をぶち壊すのは動物の問題だとは思うんですけど、健康問題で入った人でも、動物の問題をさらに知っていくことでその理論が強固になっていったり、自分の食生活が肯定されたりするので、最初のきっかけはほんとなんでもありかな、とわたしは思ってます。
生田 動物倫理学をやっている井上太一さんも、もともと環境問題に関心を持って動物問題に移ったと言ってました。ただ意外と、環境問題やっている人でも動物問題に関心を持つ人が少ないような気がします。あと、斎藤幸平さんの『人新生の資本論』も、対談したときに本人に直接言いましたが、動物問題と女性の問題についてはほぼまったく書いてないんです。ちょっと変な話で、資本主義の問題を考えたり、環境問題を考える時でも、動物の問題がなぜかなおざりにされてるな、という実感はあります。
栗田 じゃあさっき鈴木さんが言ってた、『人新生の資本論』を読んで動物の問題に目覚めたという人はある意味すごい人ですね。
生田 奇特な人ですよ。まったく書いてないところから自分のアイディアを見つけたんだから。本来は関係あると思うんですが、齋藤さん本人はあんまり関係つけてない。
岡田 資本主義の「食」という部分ではドンピシャなんですけどね。
——岡田さんも執筆されていた『エシカル白書2022-2023』を読んだんですけど、環境問題のこと語っていても畜産の話をしている方は少ないなぁと感じました。
岡田 そうですね。軽視されてしまうというのが常にあって、厳しい状況です。エシカル推進協議会で活動していても、他の団体よりは尊重してくださるんですけど、どうしても人間の問題の方が先にいってしまう傾向はあるし、中に入っていくということが難しいですね。逆にいうと、我々も人権に関心を持たなくてはならないわけなんですけど。動物の問題も同じ問題なんだということを理解してもらえるようになるといいなと思います。
鈴木 最近だと、「野生動物が殺されてかわいそうだ」と声をあげている人は結構多いんですけど、畜産動物には結びつかないんですよね。テレビのニュースでクマとかが殺されてるのを見たらSNSで「かわいそう」と言うけど、自分たちが食べている動物だって殺されている動物なのにそこには結びつかない。なんで野生動物が殺されるのはかわいそうだけど、畜産動物はかわいそうじゃないのかな、というのは不思議に思います。
岡田 畜産動物というのは、すべての一番最後にくる問題みたいに捉えられているので、本当にかわいそうなんですよね。動物の問題の中でもヒエラルキーがあって、畜産が最後なんですよね。これは悲しいことです。
生田 あと、積極的に殺せと言われているのは外来生物ですね。国の生態系を守らなきゃいけないということで無条件に殺せと言われている。(特に、ツマアカスズメバチやセアカゴケグモ、ヒアリなどの「侵略的外来種」。また、タイワンザルの交雑種はニホンザルの「純血」の保持のために殺処分されている)。
岡田 酷い状況ですね。「外国人殺せ」と言っているのと同じ状態ですから、不思議でならないんですけど。
生田 だって、外来生物のほとんどが定着しちゃったけど、当初言われたみたいに人間に害を及ぼす生物はほとんどいませんもんね。
岡田 悪いイメージをどんどんつけますよね。「怖い」とか。それは本当にジェノサイドの第一歩かと思います。人間にも悪影響だし、そういう「悪い」動物だったら何しても構わないみたいな意識を植え付けるし、悪影響しかない政策です。
生田 日本って、もはや外来動物と外来植物ばっかりなんですけどね。人間自体がアフリカからやってきた外来生物ですし。
岡田 そうなんですよ。「多様性」と言っているなかで、そこだけなぜか固有種にこだわるという不思議な状況で。でも比較的共存している動物も殺してしまうのでまずいなと思います。
生田 現代型のナショナリズムの問題がかなりあるんだろうなと思います。
一人一人にできること——動物の味方として一歩を踏み出す
——最後に、アニマルライツセンターのお二人から、これまで活動されてきたなかで感じてきた変化や、何かしたいけれど何ができるかわからないと思っている人に向けて、何ができるかを教えてください。
鈴木 わたしは動物の活動をはじめてまだ2年半なので、岡田さんみたいに長い間活動を見てきたわけじゃないんですけど、この2年半のあいだでも、特にアニマルウェルフェアはメディアで取り上げられる回数が増えてきたかと思います。今も朝日新聞の夕刊でアニマルウェルフェアの連載をやってますし、NHKのラジオでもアニマルウェルフェア特集やってます! わたしが活動を始めた頃って、自分自身もアニマルウェルフェアという言葉を最近知ったばかりでしたし、周りもヴィーガンという言葉は知っていても、アニマルウェルフェアという言葉は全く知らないような状態だったのが、今はアニマルウェルフェアもだんだん認知度が上がってきているので、たった2年半ですけど広まりつつあるなと感じています。
一人一人ができることはたくさんあると思うんですけど、わたしたちの活動の中心である「企業を動かす」ということでいうと、みなさんもなにか商品を買ったときに、自分の買ったものに卵・牛乳などの動物性の食材が使われていなかったとしても、だいたい食品メーカーって何かしら畜産物を使っているわけなので、「あなたの会社は平飼い卵に切り替える目標を持っていますか?」といった感じで、問い合わせフォームから企業に一声かけてみてください。こういう声かけをみんながしてくれたら、企業もだんだん「日本の消費者ってこんなにアニマルウェルフェアに関心高いんだ。やっていかなきゃな」とプレッシャーに感じるはずなので、ぜひみなさんも企業に声を届けるということをやっていただけたらいいなと思います。
——ありがとうございます。岡田さんはいかがですか?
岡田 海外と比べてどうかというのは置いといたとしても、日本の国内で考えると変化はめちゃくちゃあったと思います。わたしが運動をはじめた22〜3年前というのは、まわりにヴィーガンはいなくて、たまにいるかいないか…というような状態だったし、畜産動物の運動をやっている人は基本的にいなかったです。毛皮の運動ですらやっている人はそんなにいなくて、2005年に中国の毛皮産業の実態が出されたときも、わたしともう1人ではじめて、そこで集まってきた多くの人たちが、畜産の運動にぐっと入っていった形でした。なので、この流れは2人から始まって一気に広まっている状態なんですね。活動する人やこの問題について発言する人はものすごく増えています。
今でいえば、牛という、鶏よりは重視される動物ではあるけれども、彼らへの虐待が炎上して、「これはダメだ」と世間中が騒ぐ状態になるわけですので、これは昔では考えられなかった社会現象であると思います。そういう意味で「世間」というものが変わってきていると感じます。
企業の状態でいうと、わたしたち企業交渉は2012〜13年くらいからトライはしてるんですけど、きちんと話し合いが行われたり、企業の中の人と話し合うようになったのは、2016年くらいからです。当時はCSRの担当とか、サステナビリティの担当の方達が、アニマルウェルフェアのことをはじめて知った、という状態からはじまっていたし、わたしはずっと、「日本にはアニマルウェルフェアのポリシーを持っている企業は一個もありません!」と話していました。でも、今は大手企業のウェブサイトを見てみると、アニマルウェルフェアのポリシーが結構書かれている状況になってきています。これはこの2〜3年の変化ですが、非常に大きな一歩を踏み出したかと思います。
なので、とにかく声を、なるべく早く、なるべく強くあげること。わたしたちでいうと、新しく取り組んでいるのが水産物なんですが、わたしたちもまだ十分な知識はつけていないけれど、とにかく発言しはじめています。ここからがスタートなので、この運動が5年、10年経ったときに、どういう変化があるかということは観測していく必要があるかな、と思っています。
やれることでいうと、萌ちゃんが言ってくれたこともそうですし、一番簡単にできるのは、自分の消費の仕方、自分のお金の使い方を変えるという行動に移すこと。自分を変えることは一番簡単にできることですので、やってほしいなと思います。そうじゃなかったら加担する側=社会課題側にいることになっちゃうので、社会課題の解決の一部=動物の味方でいるための一歩を踏み出してほしい。お金がなかったり、財布の決定権を持っていない人でも、誰かに伝えるということはできると思うので、友達に伝えたり、SNSで発信したり、なんらかの声を上げてもらえるといいかなと思います。それぞれの立場でやれることがたくさんあると思うので、考えてやってほしいと思います。
——ありがとうございます。わたしこの前、世界の肉の消費量が増え続けているというグラフを見て、改めて打ちのめされて、「世界中でヴィーガンが増えてるのに、まだこれか・・・」と落ち込んじゃったんですけど、でもその中でも確実に変わっていっていることもあると聞けて今日は励まされる思いでした。
海外だと動物保護団体をアーティストがサポートすることもよくあるけど、なぜか日本だと芸術界隈でも動物運動に当たりが強い風潮があって、わたしたちのように文芸や美術業界にいると、周りにヴィーガンやベジタリアンもなかなかいなくて日々鬱々としがちなのですが、今日のようにじっくり話したりするのって、即効性はないけど、文学は運動を支える役割も果たしてきてもいると思うので、アニマルライツセンターがこれまでやってきた地道な運動をなるべく可視化し、表に見えるようにして、正当に評価されるための手助けができるよう、わたしも頑張っていこうと思います。今日は長い時間ありがとうございました。
*
動物問題連続座談会はまだまだ続きます。来年もお楽しみに〜!