【映画】2024年に観た「怪映画」9選+α【なにっ】
こんにちは。怒涛の2024年も終わりを迎えようとしていますね。
今年も、いろんな映画がありました……
『ゴールデンカムイ』
『ボーはおそれている』
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』
『オッペンハイマー』
『マッドマックス:フュリオサ』
『劇場版モノノ怪 唐傘』
『サユリ』
『シビルウォー アメリカ最後の日』
『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』……
もうお分かりでしょうが、本記事にこれらの感想は全くありません!
ここにあるのは私が今年観た中で、なんかちょっと、あるいは結構、どこかしら変わった感じのする「怪映画」だけ!
幾つか例を挙げるなら、
発泡スチロールのお地蔵さんに怪談を聞かせたりホラー短編映画の主役に据えてみたりして、特級呪物に仕立てようとする映画(結果は不明)
「シャブは人類を救う!」と信じて猪突猛進、そして最後は奇跡を起こすヤクザとその妻を描く、全部間違ってるけど裏返せば全問正解!な感動巨編。
カンザスシティはふたつある! ミズーリ州カンザスシティの学園カウンセラーのおじさんが、生徒指導のためカンザス州カンザスシティに出向いて巻き込まれる怪奇と恐怖と暴力! いろいろあってケツ割れパンツ姿で町をさまよう映画!
……そういう感じのが並んでおります。
コスパ、タイパから遠く離れた、ここからしか見えない風景が確実にある。
2024年「怪映画」9選+α、はじまるよ!!
1.『犬人間』(2022)
軽い気持ちで登録したマッチングアプリで知り合ったのはイケメン好青年、しかも大金持ちで両親は他界しており、お屋敷にひとりで住んでいる。
「玉の輿じゃん! 私も運が向いてきた!」
と主人公の女子がウキウキ気分でお屋敷に行ったら、
犬人間がいた。
毛皮を着て、犬のお面を被り、振る舞いもパーフェクトに犬。完全犬人間。
「えっ……えっ? なに?」と困惑する主人公(と我々観客)。しかし青年は悲しい顔で、
「ちょっといろんな事情があってね。彼は犬として生きることを選択しているんだ。どうか驚いたり、差別しないでやってほしい……」
おっ、おう……。そうですか……?
帰宅した主人公がネット検索してみると、確かに犬の格好をして人に飼われる趣味/癖(ヘキ)の方々がたくさん出てくる。
「つまり、あの人(犬)もこういうタイプの人(犬)なのかな……? けどなんかもっと深刻そうな感じだったな……」
とは思うものの、家に行くたび主人公はどうにも落ち着かない。けど差別はよくないし……でも犬人間だし……
さて、犬人間の真相はいかに。
出オチのような設定であるがこの映画、たいへんに立派な作品である。何しろこの設定・状況・犬人間の存在に対して、嘲笑やギャグやスカした笑いを一切挟まないのだ。
こういう「!?」なお話で、しかもかなりの低予算となれば、安易な笑いやチョケたシーンを入れて「テヘヘ!」と逃げたくなるのが人情である。事実そのような作品は山とある。
しかし『犬人間』にそのような逃げの態度はない。1ミリとてない。マジなのだ。スタッフもキャストもマジだし、登場人物たちも犬人間もずっとマジである。
本作はイケメン好青年の料理シーンからはじまる。小綺麗な台所で手慣れた様子で肉を焼き、半分を皿に盛って床に置く。犬人間は四つん這いの犬食いで食べはじめる。
焼いた肉の残り半分と野菜を自分の皿に乗せ、イケメン好青年は犬人間のそばのテーブルで、ゆっくりと静かに、穏やかな食事をはじめる。
「これが僕たちの日常です」と言わんばかりの、平然とした顔つきのこのシーンから開幕する点からしても腹の括り方が違う。
これによって、「いやまぁ、こういう人もいるかもしれないよね……」とこちらの価値観が揺すぶられる。でもやっぱり犬人間なので、怪しい。ここの狭間に不安とスリルが生じる。何だったら犬人間が悪行を企んでいるようにすら見えてくる。わるいぬにんげん……
スットコドッコイな見た目に反して、逃げを打たぬ妥協なき作りが光る。説明しきらず80分未満でまとめるタイトな作りも素晴らしい。これもまた怪映画と呼べるのではないか。
なお原題は「Good boy」。直訳なら「いい子」だが犬に「おぉヨシヨシ」と呼びかける時もこう言う。邦題のせいで怪度が上がっているきらいもあるが、やっぱりこれ怪映画ですよ。
2.『プー あくまのくまさん』&『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』(2023/2024)
2023年から有名キャラクターの著作権が切れたってんで
「●●が殺人鬼になって人を殺す!」
という安直極まりない作品がポコポコ作られることとなった。
ミッキーマウス、ポパイ、ピノキオ、ピーターパン、ミッキーマウス……その嚆矢となったのがコイツ、くまのプーさんが人を殺す『プー あくまのくまさん』である。
ホラーというのは水モノであるし、流行に乗って当然、話題になったら勝ち、時代と寝て何が悪いの? という強いジャンルである。
そして確固たるストーリーが無くてもイケてしまう。設定と、「出てきて殺す!」という流れと、目を見張るような惨殺シーンがあれば成立しちゃう。要するに手作りで早めに作れる。そういった図太いジャンルである。
この『プー』も、くまのプーさんの著作権が切れたその日に「著作権切れました! 殺人プーさん映画を制作中! 座して待て!!」というアナウンスがあった。商魂たくましい。
に、してもですよ。
それにしたってさ。
こんなドンキホーテで揃えられるような感じのビジュアルで、「くまのプーさんだよ」って言ってのける志の低さはオレ、さすがにちょっと、どうかと思うんですよ。
その志の低さも含めて売り(コメントを頼んだ著名人が秋元康とジブリの鈴木敏夫なのもコレまた……!)なんだろうけども。
でも有り体に言うとね、黄色い中年男性じゃないですか、これ。
ホラーとしても殺人鬼映画としても、すっごい志が低い。
たとえば、こういうシーン。
外にあるプールで夜に女性が泳いでいると、そばにあったライトがプツン、と切れる。
「あら、どうしたのかしら……」と思っているとライトが復活。
するとプールの向こう、女性の背後から、殺人鬼プーがこちらに向かってくるではないか!
ああっ近づいてくる、と思っているとまたもやライトが消える!
また点くと、さらに迫っている!
徐々に女性の近くに! コワイ!
……とまぁ、こんな王道の場面があるわけです。
ところが。
そばのライトが明滅しても、プーが迫って来る背後ではパーティー用の豆電球が点いたままなので、迫るプーのシルエットが丸見えなんですよ。
いや消しなさいよと。現場判断で「あっこれ見えちゃうな」と消しなさいよ。スリルもなんもあったもんじゃねぇよ、と。
さすがに残忍な殺しのシーンには力を入れている。見応えはある。でもそもそもプーのビジュアルがこれなので現れるたびになんだか力が抜ける。
しかしまぁこれがヒットしてしまって(俺も観たけど)、「まいどおおきに!」とばかりに今年すぐさま『2』が制作された。商魂たくましすぎる。
そしてこの続編、『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』であるが……
ちゃんとした殺人鬼/クリーチャーホラーになっていた。
造形も中年のオッサンからおぞましく変化してるし、殺しも進化、質や人数も大盛りになっている。冒頭なんてとても素晴らしくてパリピ大殺戮シーンもある。
さらに、『1』のヘッポコな仕上がりを、
「あの映画(『1』)は実話を元にした雑なホラー映画で、被害者であるクリストファー・ロビン(『2』の主人公)は、あのクソ映画(『1』)のせいで白眼視され、迫害され、困っています!」
と、『1』を墓地に送って『2』を召喚する暴挙まで働き、『2』の出来と物語性を底上げすることに成功している。『2』の中で『1』の映画を観る、という荒業までやってみせる。
キャラクターたちも無言のプー、ぶつぶつティガー、語り担当のオウルとちゃんと区分けして、悲しくおそろしいドラマまで描いてある。
なんや……うまいことやりよるやん……
水モノでイロモノの著作権切れホラーというジャンルの中で、いちばん素早くクレバーに立ち回っている作品なのは間違いないのでありました。3は2000万ドルくらいかけてプーたちvs村人の争いにロビンが板挟みになる血みどろバトルアクションにしてください。
3.オオカミの家(2018)
プロデュース:アリ・アスター
この15文字足らずで「あっ、ヤバい映画だな」とわかるのだから、アリ・アスターくん(『ヘレディタリー』『ミッドサマー』『ボーはおそれている』)の力は絶大である。
チリのストップモーション(コマ撮り)アニメーター、レオン&コシーニャ監督が描く、カルト宗教から逃げてきた女性の逃亡&隠遁ストーリー、なのですが、
壁が、
人が、
豚が、
人が、
なんか、
ズルズルの、
ボコボコの、
ぐにゃぐにゃの、
ぐちゃぐちゃの……
チリの歴史とかカルト事件とかそういうのが下敷きになってるそうですが、それどころじゃない。
難しい背景はこの映像を前にテロテロと溶解してどこかに流れていく。昨年の『MAD GOD マッドゴッド』に比肩する異常世界が繰り広げられる。
よくわからないのに「アー」「ワー」「ヒー」「ウワァー」「タスケテー」「マーリーアーーー」と脳が叫ぶ。
頭のうしろの方を謎の器具でいじくられるような映画体験。本邦でもうっかりスマッシュヒットしてしまい、監督も来日。お礼のミニメッセージ動画も届いた。場所を考えて撮影してほしい。
なお2025年には同監督の『ハイパーボリア人』なる絶対にヤバい映画が公開予定。震えて待ちましょう。
4.パンダザウルス(2024)
犬、クマ、オオカミに続いてはパンダザウルスの登場だ。パンダザウルス、ご存じですか? パンダと恐竜が掛け合わされて生まれたっぽい生物です。
目玉となる動物もおらず廃業寸前の動物園、気を病んだ経営者の夫婦は気晴らしに旅行へと出向き、海で遭難。
孤島で見つけた卵を「興味深いな……」と孵化させてみると、生まれたのが怪動物・パンダザウルス(※夫婦による命名)であった。
この珍しい動物を園の目玉にしようとした夫婦であったが、パンダザウルスは凶暴であった……。同じ檻に入れた普通のパンダを虐殺。ケージを破って逃げ出してしまう。
しかし……本当にパンダザウルスなる生物はいるのか?
動物学者やハンターによる疑念が投げかけられる中、謎の惨殺死体が発見される。世間からの夫婦への白い目は増える一方。
果たして、パンダザウルスとは……?
そもそもパンダザウルスは実在するのか……?
まぁ、いるんですけどね。パンダザウルス。
これが、パンダザウルス。
お察しくださいと書くしかありません。
監督マーク・ボロニアの他の監督作も並べておきます。どうかお察しください。
充分に察した上でもコレ、本当にね、すごかったですね。
フェイクドキュメンタリーと劇映画(ふつうのストーリー映画)が極めて雑に入り交じっている。「これさっき観たな……」と思う画像/映像の使い回しも多い。全体に仕事が雑。
パンダザウルス(以下パンザウ)はおそらくソフビよりちょい大きいくらいのサイズのハンドメイド一点モノであり、これを合成とか遠近法で使い回しているだけ。
おまけにネットにある素材的な写真や映像とおぼしきモノがボンボコ出てくる。何故ネットの素材的なモノとわかるんだ、因縁をつけるな、と言われそうだけど、画質がドラマパートと段違いで綺麗なのですぐわかる。
試しに頻出するイグアナの写真をスマホで撮って、グーグルの画像検索でdigってみたところ、月額30ドルで使える画像素材サイトに行き当たった。
「月に30ドルか。ちゃんとお金払って作ってるんだな」
と思いました。正直言うとunsplashあたりにある完全無料の素材だと思っていました。ごめんパンザウ。
もちろん素材だけじゃなくCGとかも使っています。「爆発炎上する両親の車」という字幕を出すだけの映画(『必殺!恐竜神父』)とは違い、体裁は整えてあります。一応……
逃げ出したパンザウは山らへんにある全長5メートルくらいのせせこましいトンネル近辺に潜伏。
捜索者(被害者)は導かれるように「こっ、ここか……?」と入っていく。
しかし小さいトンネルだし、真っ昼間に侵入するのでトンネル内が明るいったらない。ちょっぴり薄暗い程度で、壁から天井から足元まで全見えである。
昼日中の明るいトンネルにて「ど、どこだ……?」とか言っていると、後ろからグワーッと襲われギャーッ、あまり地べたを汚さないようにオチョコくらいの血糊がベッ、と飛ぶ。
この流れが、3人分ある。
それなりに様々な映画を観ていますけれども、さすがにつらいものがあった。しかしそのようなつらさもまた、怪映画の醍醐味と言えましょう。
新作料金を払って観るべきかと問われたら、無言で大きく頷く。被害者を増やしたい この作品を観た同志を増やしたいからである。
5.THIS MAN(2024)
同じ低予算でもこちらは頑張った方だし、やろうとしたこともわかる。なのでここで紹介しておこうと思った。
アメリカ発の都市伝説/ウワサ話をベースに、「夢の中に同じ男が現れ、こちらに危害を加えようとしてくる」というホラー作品。
舞台は日本、念願のマイホームを手に入れて幸せな生活をはじめた一家、しかし妻の夢に変なオッサンが現れる。
どうも知り合いの夢にも出現しているようで、オッサンは夢の中で様々におそろしいことをしてくる。そしてついに死者が……!
このオッサンは、何者なのか。
徐々に被害が拡大していき、大変な事態になっていく(たぶんあなたの想像の10000倍くらい大変な事態になる)ダイナミズムが面白いし、しかしあくまでも小さく、主人公家族や刑事たち周辺の描写で話が進行するミニマムさ、生活感のある手触りが好ましい。
ミニマムすぎておっそろしく単調な場面が続いたり、夫と若手刑事のボクシングのスパーリングシーンで尺を稼ぐなどどうかと思う箇所も多少、いや多々ある。が、「ワハハ~えらいこっちゃ~」と悪趣味なアゲアゲにならず、終始マジメなのは誠実である。
けれどもこのね、主役と言えるTHIS MANこと夢のオッサンが 元ネタ(リンク先画像有) の独特な不気味さから相当に遠くなって、どことなくオモシロおじさんになっているのが勿体ない。
この顔のオッサンだとね、夢に出てきて怖いことをしてもあんまり怖くないんよ。脅威として立ち上がってこないんよ。夢の中で根性出してビンタしたら倒せそうだもの。「なに人の家でニンジン剥いとんじゃボケ!」って怒鳴ったら勝てる気がしてしまうもの。弱そう。
映画全体の志・目標は高いはずなのにオッサンのビジュアルが弱くて、当然後半の日本滅亡危機展開とも釣り合わず、どうにもチグハグで妙な味のする映画となってしまった。惜しい。勿体ない。
今年は海の向こうでニコラス・ケイジが不特定多数の人の夢に出てくる『ドリーム・シナリオ』が公開され、私は未見ながらおおむね好評だったのでやはり、キーパーソンのデザインは大事なんだな、そう思いました。
ということは、佐野史郎とか阿部サダヲとか岡山天音がTHIS MANをやってたらかなりイケたんじゃないかなぁ、などと夢想する。やっぱりものづくりには時間と予算が、こう、ね……!
6.パリピ芸人、ロシアに行く(2023)
THIS MAN……この男を見よ! ということで、次はこの映画。
ふざけた邦題であるが原題は『ザ・マシーン』。これはアメリカのスタンダップ半裸中年男性コメディアン、バート・クライシャーの芸名である。
彼のいちばん有名な持ちネタは、
「オレ、若い頃にロシアに行ってさ。やっべぇロシアンマフィアと知り合って、列車強盗までやっちまったことがあるンだぜ……」
というホラ話。
本作は、このホラ話の実写化である。
「水曜どうでしょう」における大泉洋のホラ話がマンガになった時も「えっ?」と思ったが、さすがアメリカ。規模が違う。金の 無駄遣いぶり かけ方が違う。
スタンダップ半裸中年トークによってブレイクしたマシーン=バートであったが、妻や子とはうまく行っておらず私生活もガタガタ。
そんな所にロシアンマフィアがやってきて、「過去の償いをしろ……」と脅迫されロシアへ連れていかれるハメに。
ただでさえヤバい事態なのに、マフィアが来た際に同席していた父親も一緒に連行されてしまう。マフィアと父子の危険な旅路である。
で、その父親を演じているのが、
マーク・ハミル。
うん、あのね、いろいろ出てもらって大変ありがたいんですけども、いいんですか? 半裸中年男性芸人によるホラ話映画ですよ?
映画としても実にユルユルで(この概要でハードな中身だったら困るが)、ロシアンマフィアの後継者争いに巻き込まれたバートが脅されたりケツを蹴られたりするたびに「アッ、そうだった!」とロシアでブイブイいわしてた時期を思い出し……みたいな感じ。
しかし数多の危機を乗り越えて行く過程で、不仲だった父親との和解があり、イケてた過去を思い出すことで人としての自信も取り戻し、最後は悪のロシアンマフィアとの半裸同士の戦いの末、比較的善のロシアンマフィアと仲良くなって、一回り成長して帰国するのであった。
終わってみると、
「……いい映画じゃね?」
と感じるのである。
こういったね、私生活や人生のトラブルが、大きな戦いの中で(若干なし崩し的に)解決・氷解していくなんていうヌルめの王道ストーリー、最近なかったように思うんですよ。
マーク・ハミルも全体にホンワカした演技でやっているが、メンターとしての役割と存在感を十分に発揮している。
年末年始とかお盆休みにね、コタツに入ったりアイス喰ったりしながらウスラボンヤリ眺める、こういう映画があってもいいのではないか。そう思うんです。人がやたら無残に死んだりするけど、まぁそれもひとつのスパイスですね。
そんなわけで、ホラ話がなんかちゃんとした物語に落とし込まれている。胃に優しい怪映画というのもあるんだな、そう思いました。
7.破墓/パミョ(2023)
ロシアのマフィアが芸人によって揺り動かされた一方、韓国ではひとつの墓がゴンゴンと観客を揺り動かした。
今年日本で公開された映画で、これだけ観客の度肝を抜いた映画はなかったのではなかろうか。
米国に移住した韓国人実業家、しかしその家の長兄は奇妙な心霊現象に悩まされていた。
巫堂(ムーダン 巫女というより韓国土着のシャーマン)は、墓の扱いや地所が悪く、それで祖先が怒っているのでは、と見立てる。
巫堂ふたり、プロの風水師とベテラン葬儀屋を伴って山中、頂上にある墓に赴いたが──
地相は最悪。
地質も最低。
おまけに人も来ないような所。
墓所には凶とされる狐がいる。
こんな所に墓を立ててはいけない。
何故このような場所に墓がある?
あまりに危険な地所のため、お祓いと移転を同時に行うことになる。
何とか無事にやりとげたぞ、と思っていたら──とんでもないモノが──
まず前半60分、殊に最初の30分ほどのホラー描写が素晴らしい。
昼でも薄暗い山道(依頼人の富豪の上着だけが色あざやかな水色なのがイイ)、 土地に通じた風水師すら「ここは知らない」と言い、不穏な狐の群れが出現。このシークエンスではどろどろとしたBGMが低くうっすらと鳴っている。
そして墓に着くと。
一瞬にして「あっ、駄目だ」とわかる。
痺れるような恐怖・不安描写である。
それからの
「ハイテンションお祓い」
「絶対やっちゃいけないことをする奴」
「絶対やっちゃいけないことをする奴 パート2」
「出てきたヤツの怪奇乱暴狼藉」
など、抜群に魅せる魅せる。脅かす脅かす。
そして後半60分。
アレが出てきた上に、アレからソレが出てきて、我々は「?」「!?」「!!?!?」と驚愕し続けることになる。
結界とんち破り、謎の信心深さからの変身(仮)にも仰天しまくる。
ネタバレになるのでアレとかソレが何なのかは書かないが、一言だけ書くとするならば──
デカい。
ものすごくデカい。
デカいのにはある意味が込められているんだけども、そんなにデカくていいの? とさえ思ってしまうくらいデカい。
変身(仮)した後もかなりデカい。俺あんなにデカいタイプのアレ、映像でもマンガでも見たことないですよ。やっぱりデカすぎますよこれは。そりゃ天下のチェ・ミンシクもこんな顔になります。
シリアスなテーマを内包しつつ娯楽性が一切削がれぬ勢いに満ちており、それはさておきデカいし、正直ちょっと力技でごまかされてる気もしないでもない。結界とんち破りのシーンでは「そ、そんなんアリかよ」としばし困惑した。
クライマックスの「これがコレだから、そうなってこう! ヌゥーッ!」「グワーッ!!」とか結構な剛腕だと思うんですよ。理屈は成立してるだけ余計に。
ともあれ充実して円熟味さえ出てきた韓国映画からまたもやストロングな作品が生まれたことを言祝ぎたい。キャラクター映画としての味わいもありつつ類型的でない造形もイイ。
これを作り上げて成立させる力があり、さらに大ヒットするという好循環な環境があるってのは正直うらやましい。
ホラーが見たい人、そして「なにっ」「な なんだあっ」と驚きたい人にはオススメの怪映画である。
8.ウォータームーン/オルゴール(1989/1989)
竜雲(長渕剛)は禅宗の修行僧にして地球外生命体である。
一年のうち大半を寺で過ごし、残りの時期は体調管理/健康診断と称して病院を模した研究所に運ばれ、日本政府により秘密裏に、未知の肉体を調べられている。
そんな己の身の上は何も知らぬまま、生臭坊主な修行の日々を続ける竜雲こと長渕剛は、寺の中で起きる暴力沙汰に暴力で応じてしまったり、謎のフラッシュバックに苦しんだりしていた。
いろいろあって山を降りることとなった長渕剛は俗世の汚れた部分を知り、諸般の事情で無法のサバゲー野郎に腹を深くブッ刺され、教会のマリア像の前で絶叫、そして昏倒。
あっ、死んだかな? と思ったら生きていた。地球外生命体なので頑丈なのだ。助けてくれたのは盲目なのに旅館で働いている松坂慶子で……
『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』の「これを取り上げてくれ!」作品コンテストに応募され、(BGさんの名記事はこちらからお読みください)、最大級の気焔を吐いていた作品である。
そのあまりのデッカさゆえにか、受賞・採用は逃してしまった。
気にはなったものの本作品、サブスク配信はされていない。けどなんか近所のレンタルDVD屋に置いてあったため、観た。
これは大変だな、と思った。
大変な映画である。
ここで「わけがわからん」「つまらん」「駄作」と斬って捨てることを私はやらない。断じてやらない。「どうしてこうなったのか」と考える。
考えた結果、
「ドラマ主演=俳優としての成功、歌手としての成功に恵まれながらも、ふたつの成功の大きさゆえに自身の像に揺らぎが生じ、さらに撮影時のスタッフとの軋轢も加わった末に生まれた映画」
との結論に達した。これを2100字に渡って書いたフィルマークスの感想文を以下に添付する。
特に読まなくてもOKです。この記事と深い関係はないので。
で。
「主演映画としてはこれが2本目なのかぁ。これだけ観て判断するのもよくないなぁ」
と考えていたところ、映画初主演作もなんか近所のレンタルDVD屋に置いてあったため、観た。
それがこれ、『オルゴール』
ヤクザとその妹と舎弟を描いた長淵の主演ドラマ「とんぼ」のスピンオフというかパラレルワールド的な物語。
興行的にはさほど期待されていなかったらしいが、結構なヒット作となったそうである。
そしてこの映画には……「何か」が漂っているシーンが幾つもある。
冒頭の鉄砲玉とのやりとり~昼間の路上で鉄砲玉が眉間を撃ち抜かれて射殺されるシーン。
OPのトンネルを抜ける列車と、雪の中をもがき歩く長渕剛(本編にこういう場面はない)。
闇夜の路上につっ立つ長渕のシルエット。
最後の殴り込み──
これらには間違いなく「何か」がある。
目を引き、心を掴み、痺れるようにハッとさせるモノがある。
「何か」とは、強いて言うなら「妖気」「魔性」と呼ばれるモノであろう。映画には不意に時折こういうモノが降りてくるからおそろしい。
一本の話としてはバランスを欠いているけれど、そのアンバランスさが主人公のデコボコさと共鳴して、強い吸引力を宿している。
実の息子を乗せたジープで波打ち際を強引に走り、ほぼ海に呑み込まれてるシーンとか、どうぶつの着ぐるみのゴリラだけ顔が異様にリアルとか、こういうおかしさすら映画全体の迫力に寄与している。
終盤の抱き合う父子のスローモーションは長すぎて体感5分くらいあるが、この映画にはそのくらいの過剰さがふさわしい気もしてくる。
本作のヒットと胚胎された「魔性」の再来を、長渕剛は第2作、『ウォータームーン』にも求めたに違いない。
上記の自己の揺らぎに悩まされ、『オルゴール』にあった映画の魔性に魅入られた男の暴走──『ウォータームーン』は激烈な怪映画ではあるけれども、同時にそのような哀しき作品でもあるのだった。
たぶん。
9.タンポポ(1985)
伊丹十三。
長渕剛の主演作3つはサブスク配信されていないし、この人の監督作も配信されていない。話の繋ぎ方が雑だろというご意見は丁重に受け取り、そのまま受け流します。
テレビマン、タレント、俳優、文筆家としてマルチに活躍していた伊丹十三が、妻の父親の死と葬儀の体験を元に作り上げたのが処女作、『お葬式』(1984年)
念願の映画・初監督作品であった。
話題となり、かなりのヒットを飛ばし、映画雑誌や評論家筋からのウケもよく、翌年には84年映画のベスト10にも選ばれたりした、
ので、あるが……
時は試写会の日に戻る。
試写が終わった直後、伊丹十三は当時心酔していたある映画評論家の元に駆けつけた。一刻も早く、彼の評価を聞きたかったからである。
そして、以下のようなやり取りがあった。
「○○さん、僕の映画はどうでしたか!?」
「ダメです」
おわり
以前は対談までしていた仲であったのに、このやり取りからプッツリ縁が切れてしまった。おそろしいことである。
それはそうと『お葬式』はヒットしたし、評価も高い。じゃあ次作は、ってんで伊丹十三が目をつけたのが、「食」であった。
お話は簡単明瞭。
不味くて客の来ない、「タンポポ」という名前の寡婦が切り盛りしているラーメン屋を、トラックの運ちゃんがあの手この手で盛り立てて鍛え上げ、旨くて立派な店に仕上げる。
互いに恋心はあったものの、トラック野郎は告白せぬまま、風のようにラーメン屋を、女の元を去っていくのであった──
宣伝文句は「ラーメン・ウエスタン」。困っている女を助けたタフガイが、恋心を隠して颯爽と旅立っていく。まさに骨子は西部劇そのもの。タフガイ役の山崎努はちゃんとカウボーイハットをかぶっていてカッコいい。
が。
このメインのストーリーの合間に、何だかよくわからねぇサイドストーリーが ものすごい力で 強引にねじ込まれていく。
そもそも映画の冒頭からして人を喰っている。
開幕するとそこは映画館。ドアを開けて白スーツにキメたヤクザ(役所広司)が女を小脇に入ってきて最前列(つまり我々と向かい合う形)に着席。
突如出現したウェイターがテーブルを出してバケットや果物や酒を乗せていく。
最前からずっとこちらをガン見していた役所広司が「あれっ?」と身を乗り出す。
そして一言。
「そっちも映画館なのね?」
まったくもっておふざけの過ぎた導入であるが、こんなもんでは終わらない。スキあらば、スキがなくても続々と、わけのわからないものが挟み込まれてくる。
ネタバレ回避のために箇条書きで記すと、
●女だらけのスパゲッティすすり
●ホテルの客室で性と食の大饗宴
●レストランで空気を読まない人
●中華料理の爆食いからの歯医者
●妖怪揉み老婆vsスーパーの店長
●瀕死の母ちゃんチャーハン作り
●死にかけの役所広司が終章宣言
本筋のラーメン屋繁盛記とはどれも一切なんの関わりもないエピソードである。
これらがねじり込まれていき映画は謎の膨張を続ける。それはそれとしてラーメン屋繁盛記は丁寧に紡がれる。
慕っていた評論家に無下にされて若干ヤケになったんじゃねぇかと勘繰りたくなる勢いがあるが、もしかするとこう、前衛というか……なんか……ヌーベルバーグみたいなそういうアレの狙いがあったのかもしれない……わからない……
ともあれ「まっとうなラーメン屋物語」と「狂った短編エピソード」が交互に繰り出され寒暖差が激しい。
この怪奇っぷりが異様なグルーヴを産んでいるのは確かである。
日本ではさほどヒットしなかったものの海外、ことにアメリカでの人気は根強いらしい。やはりウェスタン=西部劇のご本家ゆえか。
エドワード・ノートンがお気に入りの映画として挙げているし(ソースはこちら)、アンドリュー・ガーフィールドがクライテリオン社の映画チョイス動画で本作を選んだりしている。
アンドリュー・ガーフィールドいわく、
「『タンポポ』、僕の父のお気に入りの映画です。僕が12歳、弟が9歳の時でした。『今夜はこれを観ようか』と言ってきました。
子供だった僕らは『日本のラーメンコメディなんて観たくないよ!』と拒否したわけですが、30歳前半の折に、まぁ腹を括って、観たわけです。
大変に面白い作品でした。いちばん好きなのは恋人同士(※役所広司のヤクザとネーチャン)が卵の黄身をやりとりするシーンですね。
……このクライテリオンの棚にいられる(※映画俳優になっている)のは間違いなく、父のおかげです。映画好きだった父のおかげなんですよ」
とのこと。
すごくイイ話であるし、映画チョイスのトリなので破格の扱いであるのだが、しかし、しかしですね、この映画、死にかけたカーチャンが旦那にチャーハンを作らされた直後に死んだりするんです。
西部劇パートは素敵だけども、なんかこう、いいのかな……? そんな不安がよぎってしまう。
ラーメン・ウエスタンというメインディッシュと怪奇混沌小鉢が同時に味わえる。贅沢なコース料理……なのかもしれない……
今年は特にワケもなく急に思い立って、伊丹十三監督作品・全10本を完走したことだし、今年の「怪映画」一等賞はこの『タンポポ』でいいのではなかろうか。
上記の通り配信がない(2024.12時点)ので、皆さんレンタルビデオ屋で見つけて借りるか、ソフトを買うかしてご覧ください。買って観て「怪!!」となっても、私は責任はとりません。
そんなわけで、2024年の「怪映画」記事は終わりです。
私もいろいろ大変でしたが、マジで、本当に、いろいろ大変でしたが、来年は私もあなたも、世界も、平和ないい年になりますよう、心より祈るばかりです。
2025年は、
神なき世界にて悪魔は人間に憑き、絶望させ、そして殺す。血と暴力が人の世を支配するであろう…… 『邪悪なるもの』(1.31公開)
ついに日本上陸。深夜に目覚めた子供たちに迫る暗闇・気配・物音。この家には、なにか、いる……『スキナマリンク』(2.21公開)
ついに本邦上陸。異常猟奇殺人を追う女性捜査官に忍び寄る、得体の知れぬ存在。人の仕業か、それとも。『ロングレッグス』(3.14公開)
などが公開予定です。
……ろくなもんがねぇ!!
助けてください! 助けてください!!
【おわり】