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愛が溢れている
朝が来る。窓を開ける。まだ目を開けないあなたに陽が直接当たらないように、ベッド脇にクッションをたてかける。厚めの靴下を履いて、真夜中のサンタクロースみたいに、静かにトイレへ向かう。
泣き出したあなたをそっと抱える。ギャンギャン泣く時には心配になるけれど、生まれたときにそんなに泣かなかった子だから、あなたが泣くと私たちはちょっぴり嬉しいのです。飲むものを飲んでまた目を閉じたあなたをやさしくくるんで運ぶ。
カーテン越しの陽だまりでウトウトしている。大人はご飯の支度。計量カップでお米を掬う。水を注ぐ。お米を研ぐ。炊飯器に入れる。ボタンを押す。お湯を沸かす。ポットに注ぐ。ミルク用に適温にしておく。あなたの寝ている横で、こっそりと進行するその動作に、愛が溢れている。
あなたと一緒に絵本を読む。時折偶然にうつ相槌に笑顔がこぼれる。あなたの目線に一喜一憂する。無駄に、パパママと言ってみたりする。
まだ寒い日のお風呂は迅速かつ丁寧に。時にはビショビショになりながら、あなたに保湿クリームを塗る。風呂上がりに寒そうに震えるあなたを抱きしめる。一緒に温まるその時間は好き。
オムツを替えた瞬間にオムツ替えが必要になる。意図してやっているわけじゃないのは重々承知だけれど、「おい」と突っ込む。
うまくいかない時もある。イライラしちゃう時もある。落ち込む時もある。へこたれる時もある。でも、あなたの笑顔や寝顔を見た時、その小さな手でギュッと掴まれたその瞬間、また力が溢れ出てくる。
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夜寝る時が最大のミッションになる。たっぷりお食事としっかり縦抱きを堪能してもらった後、背中スイッチの隙を狙ってベッドに寝かせる。少しでも異変に気付かれたら、あっという間に瞼は開く。無事に夜の静けさを保てたら、大人はエアハイタッチで喜ぶ。だけど、大体またその3分後に泣き出す。
ふと目にした時計の進みが予想以上で、我を疑う。あっという間に、あっとも言えない間に、1日が終わる。そんな日が続いていく。「大変だね」と人は言う。だけど、いつか振り返ったらそれは最高に幸せな日々だよ、と言う人もいる。
変わらぬように見えて、まるで違う毎日の営みの、そのどこにでも、愛が溢れている。今、隣で静かに眠るあなたはまだそれを知らない。