【読書メモ】『コミック密売人』(ピエルドメニコ・バッカラリオ作 , 杉本あり 訳,岩波書店)
図書館の海外文学の棚で別件の探し物をしていた時にふと背表紙が目に留まった1冊。漫画が規制された近未来を舞台にしたディストピアものだろうか?そう思って裏表紙のあらすじに目を通しました。
近未来ものではありませんでした。舞台はハンガリーだけど書いたのはイタリアの作家とのこと。米原万里さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読んで以来、中東欧は興味を惹かれる地域の一つです。本書は岩波書店のティーンエイジャー向け海外文学のレーベル、”STAMP BOOKS”の一環。ティーンをとっくに過ぎてしまった私ですが、ここで出会ったのも何かの縁と貸出カウンターへ持っていきました。
どこで秘密警察が見張っているか分からない街、母親と、反りの合わない継父との閉塞感ある暮らしの中で、英語が読めなくても、全部の巻が手に入らず話が飛び飛びにしかにしか分からなくてもコミックの中のヒーローたちはシャーンドルの心の拠りどころとなります。
肝心のコミックの提供者であるミクラさんが消えて、シャーンドルたちの”商売”にも不穏な影が迫ります。ミクラさんは何者なのか?どこへ消えたのか?誰かが密告したのか?謎が沢山浮かびます。
一方で、仲間の一人であるニコライは自らオリジナルのコミックのキャラクター「フォグ・グレイ」を思いつき、シャーンドルは彼と一緒にストーリーをあれこれ考えるのに夢中になっていきます。このコミック、読んでみたい。
また、大人たちは主人公たちから見て敵側も味方側も謎を持っている人物が多いのですが、商売相手の1人で、同じ団地に住むピアノ講師のガーボルさんの言葉が何とも素敵なのでここにメモ。
独裁政権下(訳者あとがきによれば、当時のハンガリーは作中で描かれているほど統制が厳しいわけではなかったそうですが)が舞台設定ということもあり重苦しい展開や、主人公にとってはショックな出来事もありますが、読後感は爽やか。
なぜか自分の学生時代は現代の海外作品をスルーしていましたが、これを機に他の海外青春物も読んでみようかな、と思えました。
こういった思いがけない本との出会いがあるので図書館の彷徨はやめられないのです。
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