【読書記録#18】シーソーモンスター(伊坂幸太郎)
伊坂幸太郎発案の<螺旋プロジェクト>という、8人の作家が共通のルールを決め、歴史物語を書いていくという企画。それぞれの物語内において、共通のモチーフや言葉が出てくる仕掛けになっているが、どの作品を単体で読んでも成立するようになっている。
また大きなテーマとしてどの物語でも「対立」を掲げている。今回の歴史物語というくくりの中で出てくる「海族」「山族」。これらの対立関係が、その舞台となる時代の子孫同士でも続いてしまう。その対立がどのように進展していくのか、読みどころのひとつである。
さて、本作品はその第一弾の作品。自分の読書歴がまだまだ浅く、伊坂幸太郎作品にまともに触れるのが2回目(内容を覚えていないが『夜の国のクーパー(2013)』を読んだ)。
本書は「シーソーモンスター」「スピンモンスター」の二部構成。前者は「嫁」vs「姑」、後者は「配達人」vs「国家」という構図になっている。
今回は「シーソーモンスター」の感想を書くことにする。
シーソーモンスター
時代はバブル経済ぐらいの時期。嫁姑の対立、とだけ聞くとなんだよくある話じゃあないか。と思ってしまったのだが、登場人物にクセのある、というか元職業が独特なものになっている。北山宮子は製薬会社で働く北山直人を夫に持つ専業主婦。その一方で、元スパイだった経歴を持つ。
いや、どういうこと?と思うかもしれない。こちらも唐突に暴露されて、ついふふと微笑んでしまった。帯に「伊坂幸太郎×スパイ」と書いてあったので、ある程度の覚悟はしていたつもりだったのだが、夫じゃなくてそっちがスパイかーという感じ。
宮子は義母である北山セツのいびりに耐えながら生活していたが、あることがきっかけで北山セツに対する不信感が増すことになり…。
ざっくりこのような感じで物語が進んでいく。
あんまり書きすぎるとこのnoteを読んでから本作品に触れてもらえるかもしれない人にとって重大なネタバレになるのでこれ以上の記述は避けるが、読むのが止まらない作品だった。
スパイもの、ということで思い出されるのは漫画「SPY×FAMILY」。この作品が出たことで、スパイものについて非常にハードルが下がったのが大きかった。
本当のスパイがどういうものか知識があるわけではないが、本作品も例に漏れず、スパイらしく諜報あり、戦闘ありのてんこ盛りの内容で、さらにその中に本プロジェクトの要素を混ぜ込んでいる。これは面白いなぁと思いページを次々にめくりまくっていた。中編小説なので、<螺旋プロジェクト>を知るにはうってつけのボリューム感だった。
この物語で「対立」について登場人物たちが語るシーンがある。特有の価値観かと思いきや、本当にそうなのかもなぁとハッとさせられる内容だったので、ぜひ読んで探し出して欲しい。