ワイン好きに捧げるレシピ#2024番外編《ドメーヌ・タカヒコと日本ワインの未来》
ワイン=ヨーロッパというイメージをお持ちの方は多いと思いますが、実はここ日本でも、世界に誇る高品質ワインが造られています。
国内初のワイン会社が設立された山梨県、信州ワインバレーで有名な長野県などの銘醸地がありますが、今回取り上げるのは最北産地の北海道!
というのも、2020年から2022年までの3年間、北海道余市町にあるドメーヌ・タカヒコの収穫ボランティアに参加し、醸造家の曽我貴彦さんから直接お話を伺うという貴重な機会に恵まれた筆者。
そのワイン造りにかける凄まじいほどの情熱、世界に類を見ない醸造方法に、すっかり魅了されてしまいました。
包み隠さず、誠実に受け答えをしてくださった曽我さんに敬意を払い、余市ワインの魅力とともにその一部をご紹介させていただきます。
自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)や有機農法に関心がある方、ワインラヴァーには特に役立つ内容となっておりますので、ぜひご一読いただけますと幸いです。
ドメーヌ・タカヒコ(Domaine Takahiko)とは
2010年、北海道余市町登地区に設立されたワイナリー。
新進気鋭ながら、現在日本ワイナリーの中で最も入手困難な生産者の1人と評されています。
購入権を獲得するための抽選が行われることからも、その人気の高さが窺えます。
さらに、2020年には世界のベストレストラン50(World’s 50 Best Restaurants)で1位を何度も獲得しているデンマークのレストラン「noma」に、日本ワイナリーで初めてオンリストされました!
設立からたった10年足らずで、なぜ世界中からこれほどまでの高い評価を得ているのか。
その理由は、曽我さん独自の栽培・醸造哲学にあります。
前例のない醸造設備と醸造方法
ドメーヌ・タカヒコには、一般的なワイナリーにはほぼ必ずと言ってよいほど設置されているステンレスタンクがありません。
代わりに使用されているのは、なんとプラスチック製のタンク!
軽くて扱いやすいという点のほか、圧倒的に低コストである点を重要視し、採用されています。
ワインは農産物だからこそ、その土地の農家が造るべきという考えのもと、ワイン造りへの参入障壁を減らすために醸造設備は低予算であること、そして誰もが真似できるような醸造方法であることを最も大切にされています。
その醸造方法も独特で、ブドウを収穫してもすぐに選果や破砕は行わず、さらに除梗(果梗を取り除く)も行わず、そのままタンクに保管しておきます。
すべての収穫を終えたのち、冬の降雪に備えてブドウ樹の剪定を終了させてから、ようやく作業に取り掛かるのだそう。
それも、誰もが無理なくワインを造れるような方法でなければならない、という独自の哲学によるものです。
ナナツモリの誕生
ワイナリーで栽培されているブドウは、すべてピノ・ノワール(スイス・クローン、ディジョン・クローンなど全13系統)。
ビオロジック(有機農法)を取り入れており、化学合成農薬や化学肥料は一切使用していません。
ところで、余市町はドイツのバーデン地方、イタリアのシチリア(エトナ)州と同じく火山性土壌。
一般的に石灰質土壌を好み、繊細で扱いにくいとされるピノ・ノワールをこの地で栽培することは並大抵の苦労ではありません。
しかし、日本の出汁を基本とする繊細な食文化に根ざしたワインを造りたいという想いから、最もやわらかく繊細な味わいを持つピノ・ノワールへの挑戦を決められたのだそう。
そうして誕生した余市町産ピノ・ノワール100%のナナツモリは、思い描かれていた通りの出汁のような旨味がじんわりと広がる滋味深い味わいで、和食と非常によく合います。
灰色かび病との闘い
ドメーヌ・タカヒコのラインナップの中で、ナナツモリと負けず劣らずの人気を誇るキュヴェがブラン・ド・ノワール。
こちらは、ボトリティス・シネレア(Botrytis cinerea)別名:貴腐菌というかびが付着することで生じる、灰色かび病に感染したブドウから造られています。
かびと聞くと驚かれるかもしれませんが、この菌がブドウの皮を覆っている蝋質を溶かし、水分を蒸発させることで果汁の糖度がぎゅっと濃縮されます。
その高糖度のブドウから造られる極甘口ワインは、希少性の高さと類を見ない味わいから世界中で高額取引されるほど。
▼甘口ワインの詳しい説明はこちら▼
しかし、当初はブラン・ド・ノワールを造る予定はなかったのだそう。
どうやら、余市町は海から近く霧が発生しやすいため、高湿度を好む灰色かび病にとっては楽園のようなエリア。
さらに、有効積算温度(10℃を基準とし、日平均気温が10℃を超える差を積算した温度)が平均約1,300℃と、ブルゴーニュ地方とほぼ同程度の条件にあります。
一般的に、灰色かび病は積算温度が低いエリアにしか発生しないため、余市町とこの病害は切っても切り離せない関係と言えます。
そこで、病害被害に困り果て苦肉の策として赤ワインと同じ製法で造ってみたところ、想像以上に美味しいワインが完成したのです。
甘口かと思いきや、いざ飲んでみるとビックリ!
実は辛口に仕上げられています。
はちみつやべっこう飴のような甘い香りに、ナッツやキノコ、茶葉などの芳醇で複雑なアロマが幾重にも重なる、何とも贅沢すぎる逸品・・・。
あの灰色かび病のピノ・ノワールがここまでの美酒に変化するなんて、と感慨深い気持ちになりました。
余市町と日本ワインの未来
お話の中で特に印象的だったのは、『自分がワイン造りに携われるのは残り数十回。自分の代でどの品種やクローンがよいかを確立させて、次の代にバトンを渡したい』とおっしゃっていたことです。
今と真剣に向き合いながらも、頭の中では常に余市町の未来を見据え、さまざまな取り組みに挑み続けている曽我さんの熱い想いが垣間見えたひと言でした。
そんな姿に憧れて、多くの研修生がドメーヌ・タカヒコの門を叩き、その卒業生たちが続々と余市町でワイナリーを立ち上げています!
雨が多く、軟水が豊富に採れる火山性土壌の日本だからこそ、旨味が感じられるやわらかな口当たりのワインが造れるのだそう。
どちらも食材のよさを邪魔することなく、そっと寄り添いながらも和食の味わいをぐっと引き立ててくれる素晴らしいワインたちでした。
自然派ワインへの個人的見解
自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)に対する世間の認識について少し考えることがあり、これまで個人的な見解を公にしたことはありませんでしたが、私は一部の自然派ワインについてはおすすめをしていません。
それは、丁寧に造られず本来の風味が消えて酸化しているにも関わらず、抗酸化・抗菌作用を持つ亜硫酸塩を適切に使用せず、欠陥臭(オフフレーバー)を放つヴィネガーのような味わいになってしまった自然派ワインです。
しかも、雑に造られたうえ亜硫酸塩を使用していないワインは、頭痛を引き起こすことがわかっています(※少々複雑な話になるため、詳細は別の記事でご紹介できればと考えています)。
だからこそ、亜硫酸塩を使用しない自然派ワイン生産者には、より高度な知識と技術が必要とされます。
そのため、世界からも認められたドメーヌ・タカヒコの成功は、東京農業大学醸造学科を卒業後、研究室に勤められていたプロフェッショナルの曽我さんだからこそ成し遂げられたことと言えます。
現在、北海道だけではなく日本中で情熱を燃やす多くの若人が自然派ワイン造りに参入しています。
日本にしか造れない、日本特有の味わいを持つワインが世界中の愛好家の垂涎の的となる日も近いかもしれませんね!
北海道内のワイナリーもブドウの収穫ボランティアを募集されておりますので、興味がおありの方はぜひ一度、魅力溢れる余市町を訪れてみてくださいね♪
最後までご覧いただき有難うございます!
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