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スイーツメモリー(餡巻き)

最初は、どら焼きを作ろうと思ったのだ。あのドラえもんのどら焼きである。ところが、カステラ風の生地をホットプレートに流すと、シャビシャビすぎたのか、テローンと円盤状に広がって、ほとんどパンケーキ状態。仕方がないので、パンケーキ状態の生地で餡をくるみ、餡まきにした。当初の計画とは違ったけれど、これが思いのほか、いいバランスで美味しかった。


大学の友人に知立に住むYちゃんがいた。お互いの家にもよく遊びに行った。Yちゃんがうちに来た時、祖母と一緒にテーブルを囲んでお茶を飲んだ。今にして思うと不思議だが、隣に住んでいた祖母は、よく私の高校や大学の友人が来ても、リビングに居座り、一緒にお茶をしていた。ボーイフレンドが買ってきたモスバーガーさえも、平気な顔してむしゃむしゃ食べていた。その日、Yちゃんは、初めてうちに遊びにきて、少し緊張していたようだった。祖母が一口、美味しそうにお茶を飲み、湯呑茶碗を置いて、Yちゃんに話しかける。


「どこから来たの?」
「知立です」
「知立? あそこはいい所だね。在原業平の歌のカキツバタのお寺もきれいだし、藤田屋の餡巻きもおいしいね…云々」
「よく御存知で。」
祖母は満足げにお茶を一口飲むと、湯呑を置いて、再びYちゃんに尋ねる。
「どこから来たの?」
「知立です」
「知立? あそこはいい所だね。在原業平の歌のカキツバタのお寺もきれいだし、藤田屋の餡巻きもおいしいね…云々」
Yちゃんはちょっと困った顔で私を見るけれど、私は、知らん顔してお菓子を食べていた。祖母は、満足げにお茶を一口飲むと、湯呑を置いて、Yちゃんに尋ねる。
「どこから来たの?」
「知立です…」


エンドレスなのだ。祖母はその頃、認知症で5分前のことも忘れてしまう。Yちゃんはだんだん泣き声で、「知立です」と繰り返すが、私は、知らん顔。挙句の果てにはテーブルの下で、Yちゃんの足を蹴っ飛ばし、(おらおら、もっとちゃんと答えろや!)その日、Yちゃんは、30分間、同じ会話をさせられたのである。そんな訳で、私は藤田屋の餡巻きが知立名物だということを、よく知っている。

おうちカフェ 餡まき アップ

〇材料 … ホットケーキミックス 卵 砂糖 蜂蜜 みりん 牛乳 餡

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