2015年 小学生部門 最優秀賞『カレジの決断』
受賞者
SAYUMIさん(小6)
読んだ本
『カレジの決断』 アイビーン・ワイマン作 瓜生知寿子訳 偕成社
作品
女の子の勇気
二〇一四年。パキスタンのマララ・ユスフザイさんはノーベル平和賞を受賞されました。その演説に世界中が共感し、教育の大切さを改めて世界中が学び、教育を受けたくても受けられない女の子達の存在を知ったと思います。へんけんに屈せず自分の意見をつき通すのは自分の身にも危険が迫る事につながるのに全ての女の子に教育をと訴え、行動を起こしています。大事なのはただ心の奥底で願うだけではなく、行動に移す事だと考え、彼女は勇気を出して立ち上がったのです。
この本にもそんなマララさんのように自分の心に秘めていた望みを行動に移した勇気ある少女がいます。名前はカレジ。しきたりの厳しいアーミッシュに生まれたカレジは豊かな自然に囲まれあたたかい農家の家族の元で育ちました。勉強することが好きで今通っている中学校を卒業した後も高校で学びたいという願いを密かにいだいています。物語はカレジの悩みから始まります。同い歳の友達はもう結婚して子供も生まれている。でも私は結婚のための花よめ修行をするよりも高校でもっと学びたいとカレジは思っていました。そこで父母に高校に進むことを相談し、高校に進む事はしきたりに反すると怒る父を説得し一年間のみという条件つきで高校進学を許されます。高校では仲良くなった友達もでき農場の外には別の世界があることを知ったカレジに一通の手紙が届きます。送り主はいとこのジェシカでアーミッシュ教を離脱し都会で暮らしているカレジの伯父の娘でした。ジェシカと文通し、見た事のない都会の暮らしぶりを聞きアーミッシュのしきたりに疑問をもつようになります。
そんな中、カレジの弟ジェイソンが亡くなりました。持病が急に悪化したのです。苦しむジェイソンに何とかしてあげたいと思ったカレジですが、家族の父親は祈るだけで何もせずジェイソンは一向によくなりませんでした。悩んだ末にカレジは家族に秘密で二人だけで都会の病院にいき手術したのですが、もう間に合いませんでした。
この件でアーミッシュの人々とはもう生きていけないと感じたカレジは伯父さんのすすめで一人で都会に行くことを決意し家族の誰も見送りに来てくれなくても強い心でむかえの車にむかって歩いていくのでした。
この物語にはたくさんの人物が登場します。それぞれ個性があり読んでいて好きな登場人物もたくさんいましたが特にお気に入りの人はカレジの弟ジェイソンです。生まれた時からせきついが丈夫でなく一人では何もできなかったのにカレジと納屋で遊んだり、時にはお手伝いもしたりと、更に自分の可能性を広げようとします。体に障害をもって生まれたジェイソンはただそれをなげくのではなく、そんな自分にもできることを見つけようとカレジと共に挑戦し続けます。最後は亡くなってしまいましたが挑戦したことは何もできなかったジェイソンの自信にもなったことと思います。
頑張るジェイソンに挑戦する勇気をもらったカレジは、とうとう生まれ育った故郷を離れ都会で暮らすことを決意します。家族は怒ってだれも見送りに来てはくれなかったけれど自分で決意した事は悔やまずむかえに来たジェシカと伯父さんの車にむかって歩いていくシーンが印象に残りました。
この本をかいたアイビーン・ワイマンさんは実在するアーミッシュの人々を取材した時に家族と地域社会のきずなを大切にし、質素な暮らしの中に幸せを見い出すことに感銘を受けたためアーミッシュに関する本をかこうと決めたそうです。部屋のかべには何一つはらず、身にまとうものにもかざりをつけない暮らしは私はできるだけしたくないけれど不必要なものは持たず知恵を働かせる事で心豊かにのびのびと生きるのは本来の人間の姿だと思います。でも最近ではカレジのように都会に出てしまう若い人も多いそうです。そんな現状をふまえきっと作者は文明が進んだ暮らしもいいけれど古来の人間の暮らしにもそれなりに良さがあり、なくしてはいけない、でも自分で考えてとった行動なら負い目を感じることはないし、自立することも悪いことではないという、相反する二つの想いをこの本に込めたのだと思います。カレジのような若者への励ましになるはずです。
私もカレジのようにいつか自立するときが来るけれど、その時は今までお世話してくれた人達に見守られている中で自立をむかえたいです。そして外の世界を知るだけでなく、自分が生まれ育った場所を愛し、理解を深めて、旅立ちたいです。
受賞のことば
『カレジの決断』は、古いしきたりにしばられていた一人の女の子が新たな道を歩むために自立していくお話です。私は、あと半年で中学一年生になります。だから自立をテーマに書かれたこの本の主人公のカレジと、自分を重ねる事でわいてくる様々な思いを言葉にできたらと思ってこの作文を書きました。
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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)
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