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【オバちゃんの読書感想文】 「風神雷神」 原田マハ 著

私は昔から頭のいい人が好き。高校生の頃に友達から「どんな人が好き?」と聞かれたときに「頭のいい人」と言ったら、「え?なにそれ?◯◯(クラスでガリ勉と言われていた男子)みたいな人が好きなの?」と言われ、『分かってないなぁ』としみじみ思った記憶がある。

よくよく考えると、異性としての魅力について尋ねられたのに、私は人間的魅力について言ってたから、『分かってない』のは私だったような気もする。
私が魅力的に感じる人間は(異性でも同性でも)、いわゆる偏差値の高い人ではなく、状況を俯瞰して見ることができたり、あちこちに散在する知識をかき集めて1つに集約してキラッと光る意見として出せたり、ウィットに飛んだ会話ができたり。色々な『頭のいい』形はあるし、どんな形でも良いけれど、「この人、頭いいなぁ」と思わせてくれる人に憧れるし惹かれる。

更に、その頭のいい人が何かしらの専門性を持っていて、その専門分野を門外漢にも魅力的に紹介してくれるという能力があった日には、オバちゃんメロメロだ。

原田マハさんの本を初めて読んだときにすぐにメロメロになった。彼女の本は数冊読んだが、中でも「風神雷神」は別格だと感じた。

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私は歴史小説が好きだ。最初にハマった歴史小説は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』だった。学生時代、歴史が好きではなかった私がなぜ『竜馬がゆく』を読もうと思ったのかは記憶にないが、読んでみようと思って買ったのに何年もページを開かなかった。なんとなく「難しそう」「面白くないのではないか」と躊躇して手に取ることができなかった。でも、頭がいいことに憧れのある私は歴史小説に憧れを持っていた。そんな私がなんとか1ページ目を開いたら、あっという間に話に飲み込まれていった。

浅田次郎の『蒼穹の昴』も好きだったし、一時期は塩野七生の『ローマ人の物語」もハマった。司馬遼太郎の『項羽と劉邦』はちょっと私には難しすぎたが、なんとか読み終えた。最近では伊勢谷武の『アマテラスの暗号』も面白いと思った。

そんな私が初めて原田マハの『楽園のカンヴァス』を読んだときに、彼女の美術・芸術に対する知識と愛情の深さが面白い小説となって出てきたことに衝撃を受けた。その後、彼女の本は数冊読んだが、中でも『風神雷神』はずば抜けていると感じた。実在した人物たちの断片をつなぎ合わせて、それはそれは壮大な物語に仕上げている。描写があまりにも緻密で、信長とのやり取り、船旅の大変さやイタリアの街の様子など、その場に一緒にいたと言われたら信じてしまうぐらいの筆力だ。

さらにすごいのが、登場人物一人ひとりが目の前に出てきたかのような鮮明さで私に印象付けてくれているところだ。良く登場人物がたくさん出てくる本だと「◯◯って誰だっけ?」ということが起こりがちだ。でも、本書ではかなり多くの登場人物が出てくるにも関わらず、そのようなことは一度も起こらなかった。おそらく、著者の頭の中では、本を書き始める前からそれぞれのキャラクターが明確になっているのだろう。そして、それを誰にでも分かりやすく描写してくれるのだ。

そして、何と言っても彼女の凄さは芸術に関する知識と愛情。でも、専門家なのに一般人にも優しい。高いところから「これだけ知ってるんだ、すごいだろう」というような雰囲気は微塵も見せずに、彼女が自分の大好きなものを「素敵だよね〜。ここが好きだなぁ。あそこもいいよね〜」と解説してくれ、一緒に楽しもうと誘ってくれているようなそんな感覚になる。

この本では、歴史上本当にあったことと、よく分からないところを上手につなぎ合わせ、それはそれは魅力的に登場人物を描き、状況を描く姿は惚れ惚れしてしまう。本当に面白い本は最初から最後まで映画を見ているかのように本を見ることができる。先日取り上げた高村光太郎の詩が言葉を味わうのであれば、原田マハの言葉は見ることができる。

手の中に収まる映画館だ。

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