「9割9分分からない」を楽しむ―ミニ読書感想『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(松岡正剛さん・津田一郎さん)
編集工学を探究する松岡正剛さんと、数学・物理学者の津田一郎さんの対談本『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(文春新書、2023年10月20日初版発行)が面白かったです。難解で、話しの9割9分は分からなかった自信はあるけれど、それでも、いや、だからこそ面白かったです。
生命を駆動させる「カルノー・サイクル」だとか、「デーモンとゴースト」だとか、出てくる単語、出てくる単語が分からない。津田さんの話に松岡さんが「なるほど」と膝を打つ場面で、何がなるほどなのか皆目分からない。
この「分からなさ」が面白いのだから、不思議。理解できない内容を面白そうに語る二人の対談を追いかけていく。呆然とした喜びです。
分からないけど面白いのは、「分からないけど重要なのは分かる」からでもある。そうした物事に指先が触れる快感がある。それは著者ら自身も語っています。たとえば松岡さんは、科学者湯川秀樹さんとのこんな会話を振り返ります。
何かすごい。その衝撃を、本書から受け取ることができる。
湯川さんの紙片のタイプ入れ替えのたとえは、どうやらDNAの話につながることが後段で見えてきます。塩基配列の同じ記号を、同じだからと言って入れ替えても、生命は元のままか。そうではない、という話(らしい)。それをLETTERのタイプ文字を入れ替えても同じなのかというたとえに落とし込むのが、天才科学者の天才科学者たるゆえんなのでしょう。
分からないけどすごい何かが、自分の中に眠る。それはやがて芽吹くかもしれない。少なくとも、その何かがない人生よりも少し、豊かになる予感がします。
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