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攻略法という発想ーミニ読書感想『自閉症感覚』(テンプル・グランディンさん)
ASD(自閉スペクトラム症)当事者で、研究者のテンプル・グランディンさんの『自閉症感覚』(中尾ゆかりさん訳、NHK出版、2010年4月10日初版発行)が学びになりました。15年近く前の本ですが、いまだに版を重ね、現在も書店の棚に挿されていました。タイトル通り、ASD者として「どう感じてきたか」がたくさん盛り込まれている。
ASDは、抽象的概念の理解に困難さがある人がいるとされます。著者もその一人。しかし、著者を支援したベビーシッターは、具体的事例を通じて抽象的概念を伝える工夫を凝らし、それが著者には通じました。
「危険」という概念はとても抽象的で、視覚で考える人にはなかなか理解できません。私は、自動車は危険だと言われても理解できませんでしたが、道端で押しつぶされたリスを見たときに、「車にひかれたのよ」とベビーシッターが教えてくれて、ようやくわかったのです。
なぜ抽象的概念の理解が難しいかといえば、著者はASDの特性として「視覚で考える」からだといいます。頭の中に精細な絵を思い浮かべるようです。一方、概念はイメージが湧きにくい。
だけれど、車に轢かれてつぶれたリスを見た時、それが危険にイコールとなる一枚の絵となって、すっと理解できた。視覚で思考する人には、それがイメージとして置き換えられれば、理解が進む。つまり「ASDは抽象的概念が理解し難い」ではなく、「視覚思考の特性があるASD者は、具体的イメージを伴えば抽象的概念の理解ができる」という説明の方が、より正確なわけです。
著者の親は、このように「ASDだから◯◯できない」という発想に立たなかった。むしろ、それでも可能なギリギリのラインを探って、トライを続けていたといいます。
それでも、母は私にひとりで買いに行かせました。娘のためになるとわかっていることについては、「自閉症だから、できなくてもしかたないわね」とは、けっして言わなかったのです。
ASDだから出来なくても仕方ないとは、決して言わない。この姿勢は学び取りたいものです。障害は工夫を凝らす理由にはなっても、可能性を狭める理由にはならない。少なくとも、周りの大人が可能性を狭める理由にするのは、抑制的でありたい。
これは、最近目にした、タレントの倉持由佳さんとゲームプレーヤーのふ〜どさんが、息子さんがASDだと公表したニュースにつながりました。下記のニュースの中で、ふ〜どさんは「ここからどう攻略していこうか考えていこう」と倉持さんに声をかけたと言います。
この「攻略」という言葉が本書にリンクします。ASDなどの発達障害には、感覚の特異性がある。それにより、さまざまな困り事が発生する。でもそれは、やりようによっては回避したり、緩和したりできる。まさしくゲームの謎解きのように、見えない命の中にあるプログラムを、うまくハックする方法が必ずある。
本書は、その攻略法の一端を当事者が自らの言葉で語ってくれている。自分の家族の障害と向き合う一助になってくれます。
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