今年もこのホーソーン・シリーズの季節がやってきたーミニ読書感想『死はすぐそばに』(アンソニー・ホロヴィッツさん)

これにハマれば、向こう5年は楽しめる。と、昨年記事を書いた「ホロヴィッツ&ホーソーン」シリーズの最新刊が出ました。アンソニー・ホロヴィッツさん『死はすぐそばに』(山田蘭さん訳。創元推理文庫、2024年9月13日初版発行)。第5作、またもやまたも傑作なマーダー・ミステリーでした。

何かに似てると思っていたら、このシリーズは「オールナイトニッポン」とか「ジャンク」みたいな深夜ラジオだよなあという気になりました。それぞれの回から、初めて聞いてももちろん楽しめる。でも、先週(=前作)を聞いてると、もっと楽しい。

しかもスペシャル回に近い。オードリーのオールナイトニッポンだったら、クミさん(春日の奥様)、バナナマンのバナナムーンGOLDだったら星野源さんみたいに、毎年楽しみがゲストがいるわけだけど、まさに「今年もホーソーンの登場回がやってきた!」という喜びです。

このシリーズは、作者が「本人役」として、半ノンフィクション的に実物と同じ設定で登場し、唯一架空の私立探偵ホーソーンと共に解決した事件の経過を小説にまとめる、というつくり。現実の英国ロンドンとフィクションが絶妙に溶け合います。

だけど今回は趣向を変えて、「なかなか探偵に面白い事件依頼が来ないけど、次作の締切が迫っている」という設定をプラス。「探偵が過去に解決した事件について聞き取って、それをレポートする」というスタイルになります。初の過去編。

しかし「本人役の作家がワトソン、架空の探偵がホームズ」というバディ形式は変わらず、作家が(ほんとは自分で創作したのに)謎の中に絡め取られていくストーリーが唯一無二です。コントが現実になっちゃうというか、現実がコントになるというか。

これもラジオっぽい。「おなじみのあの企画がきた!」と思いきや、ひねりが加わってる。

軽妙な会話と言葉遊びの妙も健在。毎回タイトルには「作家を示すもの」と「探偵を示すもの」が組み合わされていますが、今回はクロース・トゥ・ダイ。おそらくクロースが「結末」で、ダイが探偵の直面する「死」、かな。そして、タイトルにはこんな遊びが含まれている。作中、ある人物から「次作のタイトルは?」と聞かれた時の会話。

「『死がクロースを訪れる(デス・カムズ・トゥ・クロース)』というのにしようかと」
 モートンは眉をひそめた。「『死が終わる(デス・カムズ・トゥ・クローズ)』?  意味がわからないな」
 「同じcloseでも、クロースと読むかクローズと読むかで意味が変わる。言葉遊びなんですよ」

『死はすぐそばに』p241

closeは、クロースとクローズで意味が異なる。ちなみに「死がクロースを訪れる」は、今回の事件の舞台が高級住宅地「リバービュー・クロース」であることに掛けた、これまた遊び心。

ウィット、皮肉、オチ。こういうものが揃ってるのもまた、深夜ラジオ的。

繰り返しになりますが、このシリーズは本作から読み始めても楽しめる。「ん?」となる箇所もあろうかと思いますが、気になれば遡れば良い。しかも、過去の事件の真犯人は毎回伏せられていて、ネタバレ防止がされてる親切設計。

シリーズは10作程度の予定で、まだ4、5年は楽しめます(だいたい年一作刊行)。ぜひ、今からでも「リアタイ」してほしい。

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昨年の記事はこちらです。前作『ナイフをひねれば』について。

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