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豊かな文化と複雑な歴史を知れたー読書感想「物語ウクライナの歴史」(黒川祐次さん)
元ウクライナ大使の日本人外交官、黒川祐次さんの「物語 ウクライナの歴史」(中公新書)を読んだ。ウクライナにどれほど豊かな文化があるかを知ることができた。また、さまざまな民族、国家が関与してきた複雑な歴史があることもよく分かった。
帯には「緊迫するウクライナ情勢を知るための一冊」「ロシアが影響下に置こうとするのはなぜか?」とある。本書を通読して、歴史的観点からいくつかの答え方があると感じた。もちろん、それらは侵略を正当化する理由にはなり得ないことは強調してもしたりない。
まず、1000年以上前の時代に現在のウクライナの地域にあった「キエフ・ルーシ公国」の存在の大きさが影響しているといえる。キエフ・ルーシ公国は興隆を極めたあと、モンゴル勢力によって失われてしまい、キリスト教キエフ主教が最終的にはモスクワに移った。このことから、キエフ・ルーシ公国の大国としてのルーツがロシアに引き継がれているとの発想が可能になり、ロシアとのナショナリズム的紐帯を感じさせる要因になる。
また、時が流れ、共産主義革命後のソビエト連邦においてウクライナは「県」の一つとして「ソビエトのいち地方」だった時代があることも理由として考えられる。
一方で、モンゴル勢力がウクライナがある地域を一時支配下に置いたように、その時代時代によって国家の形は目まぐるしく変わる。たとえばポーランドが支配していた時期もある。ウクライナのひとびとは「ウクライナ人による国家」を持つことができた時期がそれほど長いわけではなく、だからこそ、現在のウクライナという国がここにある意味は極めて大きいのかもしれない。
実際、ウクライナ史の権威スプテルニー氏はウクライナの歴史の最大のテーマは「国がなかったこと」だと指摘しているそうだ。
本書を読んで何より驚いたのは、ウクライナの文化的厚みだ。たとえばロシアの著名作家として名前が挙がるゴーゴリは、ウクライナの「コサック」としてしられる民族の末裔で、つまりはウクライナ人だった。音楽のチャイルコフスキーもウクライナがルーツだという。
科学分野では、ソ連の衛星スプートニク打ち上げに貢献したコロリョフがウクライナ人とのことだ。黒川さんは「ウクライナには歴史も文化も科学技術もあるが、それはすべてロシア・ソ連の歴史、文化、科学技術として括られてしまい、その名誉はすべてロシア・ソ連に帰属してしまっていたのである」(3ページ)と述べているが、ウクライナのひとびとにとってはなんと悔しいことだろう。
国を守りたいという思いとと同時に、こうした豊かな文化や歴史を守りたいという思いがひとびとにあるのだろうかと思いを馳せた。改めて一刻も早く、平和が戻ってほしい。
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