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好きでも嫌いでも語りたくなるコーヒーの魔力ーミニ読書感想「こぽこぽ、珈琲」(河出文庫)
村上春樹さんや井上ひさしさん、よしもとばななさんなどそうそうたる31人がコーヒーについて語ったエッセイをまとめた「こぽこぽ、珈琲」(河出文庫)が面白かったです。2022何11月20日初版発行。コーヒー好きな作家さんだけではなく、全然コーヒーが好きじゃない人もいる。それでも語りたくなってしまうコーヒーの引力、魔力が感じられる本でした。
村上さんのエッセイのタイトルは「ラム入りコーヒーとおでん」。この二つを同じ地平に並べるところがユニークに思える。決して「合う」という話ではなく、それぞれが「冬になるとうまい」というのが村上さんの感想だそう。
熱い熱いコーヒーの上に大盛りの白いクリームがのっていて、ラムの香りがツーンと鼻をつく。そしてクリームとラムの香りが一体となって、ある種の焦げくささのようなものを形成するわけだ。これはなかなかのものである。
ある種の焦げくささ、香りの一体感。うんうんと頷いていまします。しかも、これが冬のヨーロッパで飲むものと想像する。キリッとした冷たい空気とコーヒーの香りはなんとも言い難いだろうな。
対して井上ひさしさんは、作品を書くために仕方なく喫茶店に通っていたと公言する。当時、入り浸っていた喫茶店のマスターの女性からの言葉が印象的。
店でそのままずーっと仕事をなさっていていいんですよ。その原稿、明日の朝六時に印刷所に入れないと、明日の本読に間に合わないんでしょう
いまでも、スターバックスはサードプレイスを目指しているなどと言われます。しかし喫茶店の人情はそれを遥かに上回る勢いがあります。井上さんは女性の言葉通り、喫茶店に徹夜して仕事をやり遂げる。
コーヒーというのは、「その場所にいられる」チケットのような意味合いもある。つまり、ある場所にずっと留まって仕事をして良い。極論、座っているだけで何もしなくてもよい。それを認めてくれる苦味でもあるわけです。
コーヒーを語ると、ついその場所、共にいる人、流れていく時間に目がいく。それら全てを包含したものが、コーヒーなのかもしれません。
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