その世界は本当に消えてしまっていい世界なのか【消滅世界】
今の世の中で当たり前である世界が
いずれ消滅してしまうのかと思わされる
本当にそれは消滅してしまっていいのか
【本の基本情報】
〇ジャンル:日本文学
〇本の種類:文庫本
〇著者名:村田 沙耶香
〇出版社:河出文庫
■「消滅世界」について
本作品は、「コンビニ人間」で第155回芥川賞を受賞した村井沙耶香氏の作品です。
コンビニ人間よりも前に出版されたのがこの「消滅世界」です。
コンビニ人間が面白かっただけに、とても期待しながら読みました。
そして、読了後の感想としては、「衝撃」を感じてしまった。と言えます。
本作品の中で描かれている、未来の人間の世界。
その世界に感じる違和感・恐怖・異質さ、そして不安。
この描かれた世界への違和感が
本作品の中では消滅したとされる、今の私たちの生きている世界への安心感や温かさをより大きなものに感じさてくれました。
本作品の世界が、今の世界、時代を生きる私たちが何となく想像できる世界だと感じられるからこそ
この作品の世界にグッと入り込み、その世界へ対する違和感や不安といった感情がよりリアルに感じられたのだと思います。
■描かれた世界に感じた違和感は何か?
本作品は、「セックス」、「家族」というものが世界から消えているという状態で始まります。
そういうものが消滅した世界。
今私たちが生きているこの世界の考え方から変化した世界。
人間は人工授精で子供を産むことが当たり前となり
夫婦間でのセックスは近親相姦と言われ、気持ち悪いとされている世界で物語は進んでいきます。
これは未来の私たちの世界なのか・・・?まさか・・・。という疑いの考えと
このままではそうなってしまうのかなと考えてしまっている自分がいました。
しかし
公園に入ると、白いスモックを着た子供たちが一斉に振り向いた。
「お母さん」
「消滅世界」:村田沙耶香 P.194
子供たちは愛玩動物のように振る舞うのに慣れていた。
「消滅世界」:村田沙耶香 P.195
「初めての 「お母さん」活動ですか?
「消滅世界」:村田沙耶香 P.196
「子供ちゃん」は白いスモックにハーフパンツ
「消滅世界」:村田沙耶香 P.196
上の引用部は、本作品中の中で描かれた、未来の家族、子孫繁栄の形をとっている世界の中に住む人たちが口にする言葉です。
この他にもたくさんの言葉が作品中にあります。
これらの言葉に違和感を感じずにいられませんでした。
私はやはり、今のこの時代に生きている人間なんだと、作品中に描かれたような、未来の世界を素直に受け入れる準備が出来ていないのだと感じさせられました。
しかし、これらの言葉の中で描かれている特に「子供ちゃん」という言葉。
個性もなにもないただの機械のようにしか感じられなかったのです。
今の世界に生きる人間と、これから先の未来に生きる人間。
この大きな「変化」を目の当たりにして、何を受け入れて、何を拒絶するのか、それを考えさせてくれる作品です。
■「消滅世界」を読んで!まとめ
本作品、実は読み始めの前半部は、その描かれた未来の世界と
そこに住む人々の考え方や発言に、気持ち悪さを感じました。
受け入れられない・・・
そんな気持ちすら感じながら読み進めていました。
そして、その違和感を感じる未来の世界が現実にどんどん進んでいき
そこに住む人たちも、その世界の考え方に染まっていき、その世界に対して「楽園」と感じるようになっていきます。
そんな中で、まだ今の世界の考えを知っているわずかな人間の存在があります。
未来の世界ではタブーとされる夫婦間のセックスを守る、そして本能的にそのタブーに抗えない人間。
変わっていく、愛情の表現や嫉妬心そして家族の形。
読みながら、未来の世界に対して違和感を感じている人間の葛藤が
自分の中にも同じように出てきました。
コレがもし本当に未来の世界だったら・・・
家族という姿がこんなふうになってしまうのなら・・・
今の世界の科学や医学、そしてITの進歩は
もしかしたら人間たちの本能的な部分まで変えてしまうのではないかと本気で不安になりました。
進化は人間にとって防ぎようのないこと、人間がこの世に誕生してから
その進化・変化を繰り返してきた結果が、今私たちが生きている世界だということは分かります。
しかし、人間の本能的な部分の
その進化には科学的な方法で、その進化の向きを変えるようなことはしてこなかったのではないか
出来る技術があったとしても踏み込まなかったのではないか。
そんな人間の本能的な部分にまで、読んでいる人の考えを至らせる作品だと感じました。
内容は衝撃的と書きました。衝撃的なことが淡々と描かれている作品。
まだ見ぬ未来の世界。そして消滅する今の世界と人間の本能。
人間はこれからどんな変化を遂げていくのでしょうか。
こんな疑問を持たずにはいられない、著者の芥川賞を受賞した作品「コンビニ人間」とは全く違う雰囲気を持った作品です。
今自分が持っている価値観を自分自身で確認できる作品だと思います。
正常ほど不気味な発狂はない。
「消滅世界」:村田沙耶香 P.248
最後に、この言葉にゾッとしました。
異常なのか?などと疑いもせず、その状態に染まっていく、そこにある冷静な部分をとても不気味に感じました。
この未来の世界は、今の世界を消滅させて向かおうとしている人間の進化・変化なのか。
科学的に、医学的に作られた周りの環境に順応していく人間。
そこに「正常」という言葉が当てはまっていくのか。
この作品は、読みながら、自分自身の価値観や感覚というものを改めて知ることになります。
未来の世界に違和感は感じているはずなのに、その世界が来ることはないと完全に否定できない。
自分自身の感覚が混乱するほど、未来と今の世界を比べ、考えさせられます。
気持ちがわるい、違和感があるといった感情で最後まで引き込まれて一気に読んでしまう不思議な作品だと感じました。