あの人が僕を人間に戻してくれた。【告解】
被害者の家族と加害者とその家族
それぞれが次へと進むためにどう生きていくか。
償いきれない罪
罪を犯した者へ、最愛の人を奪われた男が見せた姿とは。
【本の基本情報】
〇ジャンル:日本文学
〇本の種類:単行本
〇著者名:薬丸 岳
〇出版社:講談社
■「告解」について
「告解」という言葉。
この言葉の意味は、「ローマ、カトリック教会で神と司祭の前で、信徒が自分の犯した罪を告白すること」です。
著者の薬丸岳氏は、ドラマにもなった、「Aではない君と」など、罪を犯してしまった少年についての小説などを書いています。
今回読んだこの「告解」という小説も、運転中に人を撥ねてしまった少年がとその家族、そして被害者の家族について描かれた作品です。
1つの事故によって、大きく人生を変えざるを得なかった被害者と加害者。
それぞれの心情をとてもリアルに描いています。
事故によって最愛の人を奪われた男性。
加害者である男性の名を忘れないように繰り返し口にします。
「彼にどうしても会わなければいけない」
なぜか、加害者の男性のことを恨んでいるようには見えない。。。
最愛の人を奪われた男性が、心に秘めていたその思いが、加害者の男性を本当の償いへと向かわせます。
■加害者と被害者の家族!難しい関係性を描いた物語
本作品は、「ひき逃げ死亡事故」という悲惨な事故を扱った物語です。
加害者とその家族、そして被害者の家族、とてもデリケートなそれぞれの心情を実にリアルに描いています。
加害者の不注意と、身勝手な自己保身で命を奪われた女性。
そして、最愛の人を突然奪われた男性。
そしてこの事故によって被害者の家族、加害者の家族も平穏な生活が奪われてしまいます。
加害者は、事故後裁判により裁かれ、刑務所でその罪を償い、刑期を終えて社会へと復帰します。
そこで彼は、自分のせいで大きく人生を変えられた、自分の家族のことを知らされ、家族のもとを離れ一人生きていく事を決めます。
働きながらまっとうな人生へと自分の人生を戻そうと考える加害者の男性。
しかし、その気持ちを素直に受け入れてはくれない社会。
自分は十分罪を償ったじゃないかという思いと、本当にこのまま自分の人生を楽しく生きていいのかという加害者の心の葛藤。
罪を償ったとは到底納得できない被害者家族の心情。
この2つがまた交差し始めた時に、最愛の人を奪われた男性、被害者の夫が動き出します。
被害者の夫が、加害者の男性に会って確かめたかったこと、そして、これだけは絶対にやっておきたかったこと。
加害者の男性に会わなければいけないという強い思いの本当の理由と
それによって、分かってきた加害者の男性に対する本当の思い。
そこに、この小説の深さを感じました。
これまでにない、意外な物語の結末が心にグッと刺さりました。
■「告解」を読んで!まとめ
この作品は、許されない罪を犯した加害者とその家族、そして被害者とその家族の心情のそれぞれを表現するという
とてもデリケートで難しいことを扱った作品です。
ある一人の少年が犯した罪は、被害者とその家族にとってはどんなに謝罪されても
どんなに長い刑を終えても決して許されるものではありません。
しかし、それでも残された被害者家族、そして加害者とその家族も生きていかなければなりません。
加害者である少年も、刑を終えて社会に復帰すれば、当然生きていくのです。
生きていきながら、自分は罪を償ったのか?償えてないのか?という迷いと葛藤していく事になるのです。
本当の意味での罪を償うということ。
それは一体どういうことなのか。。。
罪を犯した人がどれほどの償いの気持ちを持っているのかは他人には分かりようがない。
口ではどんなことでも言えるし、一時であれば反省の態度を示すこともできるから。
「告解」薬丸 岳 P.288 より
上の引用の言葉に罪を償うということも難しさのすべてが表されていると感じました。
罪を償えたかどうか、それは償いの気持ちを数値で表すことが出来ない限り、絶対に他人には理解してもらえないのです。
しかし、どこかで被害者と加害者のそれぞれの心情が落ち着いていかなければ、落ち着かせるように動かなければ
それぞれの人生は前を向いていかない。
被害者の家族にとっては、許すという気持ちにはならない、怒りがおさまることはないですが
その怒りを、少し和らげるような何かが無ければ、その人生は前を向けない。
納得はできないけど、加害者の償いの気持ちを知りたい、確かめたい。
しかし、それを知る術はない。
加害者が本当に罪を償い、被害者とその家族の気持ちを理解する。
本作品では、そのきっかけを作るのは被害者の夫として描かれています。
加害者に対して最も怒りを感じているはずの被害者の夫の言葉が
加害者の心を本当の意味での償いへと向かわせます。
被害者の夫の過去の経験が、加害者が罪を償っているかということを確かめる方法につながるのです。
被害者の夫と加害者の男性が二人の心の奥底にある思いを確認しあうことで、言葉には出来ない償うという偽りのない心を引き出します。
とても難しいそれぞれの心情を描く。
結末に向かうまで、読むことを止められない、深い作品でした。
最後の最後にある、加害者の男性の言葉になんとも言えない感情になり、思わず涙が溢れました。