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成果を出すマネジャーは、目標を2つ持っている

「今月の売上目標まで、あと300万円… 今月落とすと、期末までカバーできないぞ…」

このプレッシャーに押しつぶされそうな マネジャーのAさんから、先日相談を受けました。
期末の着地について、数字を問われ始めるこの時期。
あなたも、同じような悩みを抱えているのではないでしょうか。

私は10年間、様々な事業のマネジャーとして営業・事業開発の組織運営に携わり、現在もコンサルとして支援させていただいています。
その経験から、目標設定における重要な気付きを お伝えしたいと思います。


■目標には2種類ある

ビジネスにおける目標には、2つの異なる性質があります。

1つは「成果目標(KGI:Key Goal Indicator)」 もう1つは「行動目標(KPI:Key Performance Indicator)」です。
この言葉そのものについては、今ではほとんどのビジネス現場で当然のように利用されていると思います。
まずはおさらいも兼ねて、定義を見ていきましょう。

■成果目標とは何か

成果目標は、期末に達成すべき最終的な結果です。

典型的な例: ・売上高 ・利益額 ・シェア率 ・顧客満足度

これらは、ビジネスの成否を判断する指標となります。

■成果目標の特徴

ハーバード・ビジネススクールの テオドール・レビット教授は著書で指摘します:

「成果は、常に他者の選択によって決まる」

つまり、成果目標には重要な特徴があります:
 ・他者の意思が介在する
 ・直接的なコントロールが難しい
 ・結果が出るまで時間がかかる

■行動目標とは何か

一方、行動目標は日々の活動の指標です。

具体例:
 ・顧客面談件数
 ・提案書作成件数
 ・見積提出件数
 ・フォロー連絡回数

■行動目標の重要な特徴

行動目標は「EDWINフレームワーク」に従うことを私はよくおススメをしています。

E:Easy to control(コントロールしやすい)
D:Doable(実行可能)
W:Within your power(権限の範囲内)
I:Immediate feedback(即座のフィードバック)
N:Numbers(数値化可能)

目標設定のフレームワークには、SMARTなどほかにもいくつかありますが、EDWINの優れているところは「E:コントロールしやすい」と「I:即座のフィードバック」を設けている点です。

つまり、EDWINに沿った目標設定は「試行錯誤しやすい」という大きな特徴があります。

■なぜ2つの目標が必要か

ある加工会社のマネジャーの言葉が印象的です:

「売上目標だけを見ていた時は、全てが不安でした。 しかし、行動目標を設定してからは、 具体的に何をすべきかが明確になりました」

■行動経済学からの示唆

行動経済学者のダニエル・カーネマン氏は こう指摘します:

「人は自分でコントロールできないことに対して、 過度のストレスを感じやすい」

ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?

これは「制御錯覚」という心理現象の一つです。

私たちの脳は以下の特徴を持っています:
 ・コントロールできないことへの不安
 ・不確実な結果への過度な心配
 ・短期的な結果への過剰な注目

ある実験では、興味深い結果が示されました:

・売上目標だけを示されたグループ

・具体的な行動目標を示されたグループ
では

後者の方が:
 ・ストレスレベルが40%低く
 ・業務満足度が35%高く
 ・生産性が25%向上

つまり、私たちの心理は:
 ・漠然とした不安よりも
 ・具体的な行動指針を求めているのです。

■行動目標と作業指示の違い/私の失敗談

この考え方に触れたとき、当時の私はふと思いました。
 「それって、ようするに、チームには細かく指示した方がいいってことだよな?」

結論から言うと、この考え方は間違っていました。指示と目標の提示では、伝え方も変わってくるからです。

例えば、「行動目標」として部下に提示すると、こんな伝え方になりますよね。

「Aさん、今週の行動目標として、顧客訪問を20件で設定してみましょう。
 訪問の内容や、どんなお客様と面談するのが効果的か、計画を立ててみてください。
 もし途中で難しい点があれば、随時相談してくださいね。」

続けて、「作業指示」として部下に提示するときは、こう話しかけるのではないでしょうか。

「Bさん、今週は顧客訪問を20件行ってください。リストがなければ、相談してください。何か不明点があれば、すぐに聞いてくださいね。」

■成功への転換点

さて、冒頭に紹介したある加工会社のマネジャーのケース。
その後、以下のように目標を2つに分けました。

行動目標として:
 ・新規訪問:週20件
 ・提案件数:日3件
 ・フォロー連絡:月50件

成果目標として:
 ・四半期売上
 ・顧客継続率
 ・顧客満足度

結果は以下の通りでした。
3ヶ月後の結果:
 ・売上:前年比130%
 ・解約率:半減
 ・チーム定着率:95%(例年70%程度)

売上が伸びて目標を無事達成したのもそうですが、私が驚いたのはチームの定着率が伸びた(=離職が減った)ことでした。

そのことに関して、マネジャーは以下のように振り返っています。

以前は、行動目標で挙げた「・新規訪問:週20件」に対して、とにかく行ってこいという指示だけだったのだと思います。
行動目標として設定したことで、考えるバトンが部下に渡ったようでした。
部下本人から「どうしたら、自分が嫌な思いをせずに20件訪問し、打率を高めて楽に売上立てられるのかを考えるようになった。行ってこいの時は、まぁとりあえず工場訪問して怒られればいいよなって考えてましたよ」と聞いた時は思わず笑ってしまいました。

■脳科学からの裏付け

スタンフォード大学の研究では、「達成可能な小さな目標」の達成が脳内でドーパミンを分泌させ、次の行動へのモチベーションを高めることが明らかになっています。ドーパミンは「快楽ホルモン」として知られ、達成感や満足感を引き起こし、ポジティブな行動の繰り返しを促します。このメカニズムは、長期的な目標達成の過程で重要な役割を果たします。

■エドウィン・ロックの目標設定理論との関連

エドウィン・ロックは『目標設定の科学』で、明確で挑戦的な目標が高いパフォーマンスにつながると主張しています。

しかし、その目標が現実的かつ達成可能であることが重要です。彼は、目標を達成するためには「フィードバック」が不可欠であり、目標が具体的であるほど進捗が把握しやすく、達成感を得やすいとしています。

■EDWINフレームワークの補足

EDWINフレームワークは、まさにこの目標設定理論を実践的に補完するものです。特に、以下の2つの要素が脳科学の観点からも効果的であることが分かります:

  • E:Easy to control(コントロールしやすい)
    自分で管理・調整できる目標は、達成の手応えを得やすく、次の行動への自信につながります。これはロックが提唱する「目標の具体性」とリンクしており、進捗の可視化が容易です。

  • I:Immediate feedback(即座のフィードバック)
    短期的な目標達成のたびにフィードバックを受け取ることで、脳はドーパミンを分泌します。行動と結果の因果関係が明確になるため、モチベーションを維持しやすくなります。

■実務への適用

「顧客訪問20件」を目標として設定する場合、EDWINフレームワークを活用すれば、その目標が具体的で、自分のコントロール範囲内で実行可能であることを保証できます。さらに、1日の終わりに訪問件数を振り返ることで、即時のフィードバックを得られ、次の行動へのモチベーションを強化できます。

ロックの研究とEDWINのフレームワークを組み合わせることで、行動目標の心理的および実務的な効果を最大化できるのです。

■実践のための3ステップ

  1. 成果目標(KGI)を明確にする

  2. 行動目標(KPI)を3つ設定する

  3. 日々の行動記録・振り返る

ひとつの成果KGIにつき、行動目標KPIは3つに絞ってください。多すぎても、少なすぎてもいけません。
影響度の高い目標に絞ることは、つまり「やらないこと」を決めるのです。
それは、経験豊富なあなたが、部下にしてあげられる最大の指導です。

■最後に

成果を出すマネジャーは、 2つの目標をバランスよく持っています。
まずは、あなたの行動目標を 設定することから始めてみませんか?

【参考文献】

・『マーケティング発想法』テオドール・レビット


・『ワーク・モティベーション』ゲイリー・レイサム 他

・『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン


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