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ラディカル・ゾンビ・キーパー

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#長編

ラディカル・ゾンビ・キーパー 終

ラディカル・ゾンビ・キーパー 終

 クミにスターバックスに誘われた。
 思っていた通り、駅前のスターバックスは四ヶ月で閉店となった。今日がその三日前で、前に覗いた時よりも少しだけお客さんがいた。
 フウカは一緒ではなかった。
「ナオミのこと、あたし、好きなんだよ」
「え?」
「ナオミがあたしたちのことをウザいって思ってるのは知ってる、フウカは無神経でそういうのに全然気がつかないからあれだけど、あたしは知ってるよ、だけど、あたしはナ

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 八

ラディカル・ゾンビ・キーパー 八

 目を覚ました、という感じではなかった。照明のない長いトンネルを目隠しされたまま抜け出たような感覚だった。しかし先に反応したのは視覚ではなく嗅覚だった。便所のような酸っぱいむせ返るような臭いがするが、その気体の粒子一粒一粒はプラチナよりも重い気がした。体中にこびり付き纏わりついて、それらは汗に混じって体を溶かしていく。このままここにいたら塩を掛けられたナメクジみたいに溶けて消えてしまいそうだとラド

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 七

ラディカル・ゾンビ・キーパー 七

 高校の同級生に青白い肌の女がいたことをラドは思い出した。白い肌にうっすらと浮かんだ青い血管が童貞の小僧にはあまりに刺激的だった。
その女はクラスで浮いた存在だった。顔や性格が悪かったわけではない。笑わないのだ。あれだけ楚々とした顔立ちの女はいないだろうとラドは今でも思った。背も高かった。肩甲骨まで伸びた長い髪、きりっとした切れ長の瞳、化粧品の広告モデルでもしたら世の中は必ず大騒ぎになるだろうとま

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 六

ラディカル・ゾンビ・キーパー 六

何もしていないのに一日のテンションを保てない。双子座の今日の運勢が最下位だからだろう。急に嬉しくなったり苛々したり悲しくなったり怖くなったりする。動脈の血の色のメガネを掛けたOLが秒給八千円以上のビル・ゲイツに嫉妬してヨガにハマる感じに似ている。それでいて、一方で、セブンイレブンの冷やし中華をビニール袋の中で汁と共にこぼした時に発生した酸っぱい臭いと同じ臭いをワキに抱えた、メイド喫茶で働きたいと強

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 五

ラディカル・ゾンビ・キーパー 五

アブソルート・スラットを飲み干した後にシット・オン・マイ・フェイスを頼むと、ラドはボーイにVIPルームへ連れられた。都内最大のキャパシティーを誇る六本木のクラブ「クレセント」、インテリアは世界的に有名なデンマークのデザイナーが手掛けていて、一人用のソファだけでひとつ六十万円もする。それらは全フロアに配置されている。しかし一般客がVIP客と顔を合わせることはまずない。VIP客は隣接するホテルのスイー

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 四

ラディカル・ゾンビ・キーパー 四

駅前にスターバックスができたの知ってる?
どの辺?
駅出て、右の方、
ローソンがあったとこ?
そうそう、昨日、フウカと行ってみたんだけど、暇そうだった、
ローソンの前はなんだったっけ?
ビデオ屋じゃなかった? キャラメルマキアートもなんとなく微妙な味だったよ、
アメリカンコーヒーが一番おいしいよ、
薄いやつ?
そう、
あそこはリッチが悪いよね、あたしら高校生ぐらいしか行かないでしょ、
すぐ潰れるよ

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 三

ラディカル・ゾンビ・キーパー 三

 白い砂浜。点。点が、白い砂を溶かしていく。剥き出しになった赤い土、重なり合って色を濃くする。とても静かだ。静かだが、灰白色の煙が脳みその隙間を撫で回すような感じだ。泡が膨らんでいく。その内の一つが油絵の具のような黄色い汁を噴き出した。女は、犬のヨダレにまみれたクマのぬいぐるみのような顔で、白目を濁していた。
 まただ、隣の家からドラえもんの主題歌と母子の声が聞こえてくる。夕食。プラスチックの上で

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 二

ラディカル・ゾンビ・キーパー 二

車内アナウンスが首を絞めたセキセインコみたいな声だった。それに気がついたのは私だけ、地味なアンゴラのセーターを着たオバサンもライム色のカットソーを着たソバカスだらけのお姉さんもイヤホンを詰めた天然パーマの学生も叩き潰した蚊みたいになんの反応もなかった。
雲ひとつない青い空。あれは本当の青じゃない。幼稚園児が橙に塗ったり紫に塗ったり緑に塗ったりする方が本当だ。私にも緑に見える。よく、マンガやイラスト

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ラディカル・ゾンビ・キーパー 一

ラディカル・ゾンビ・キーパー 一

目を覚ました、という感じではなかった。照明のない長いトンネルを目隠しされたまま抜け出たような感じだった。目隠しをはずしても陽の光を瞼の上から感じることはなく、ゆっくりと目を開けると、そこにはくすんだ白い壁と焦げ茶のテーブルとマホガニーの床が当たり前のように存在していて同化しきっている、そういうことに何の疑問も浮かばなかった。
手の震えが止まらない。一年以上も前から震え続けている気もしたし実は震えて

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