「服従」を犬の心で考える
イヌが相手の前で仰向けになってお腹を見せるのは、「あなたに服従しているんです」というサインである――。イヌの飼い方のマニュアル本には、例外なくこんなふうに説明されています。
お腹という攻撃されるといちばん弱いところをわざわざさらすのだから、服従の意思表示をしているというわけです。
なるほど、人間の目から見れば、相手のご機嫌を伺うようなこのポーズは媚びた卑屈なしぐさに映るかもしれません。
ここで私たちは自問する必要があります。「服従」(あるいは「支配」)という便利なラベルを付けることで、イヌをわかった気になっていないか?
ラベルをつけて物事を分類し単純化するのは、人間社会によくみられる傾向です。しかしそれが何をもたらすかは明らかです。物事の一面しか見ようとしなくなるのです。いったんラベルを剥がしてみましょう。
抑制と和み
イヌたちがけんか遊びをする際、一方のイヌが他方のイヌの前でごろんと寝転がり、腹部をさらすことは決して珍しくありません。
子イヌ時代の早い時期からこのしぐさは現れ、同腹のきょうだいのじゃれ合いの中にも見られます(参照:見出し画像)。
取っ組み合いをしたり咬み合ったり、成長期のイヌたちは好んで腕試しをします。遊びがオーバーヒートしそうになったとき、仰向けになってお腹を見せることで「もうやめておこうよ」とサインを出し、行きすぎた遊びを抑えるのです。
原始の時代から群れ生活をしてきたイヌは、集団の中での位置や立場を読み取る能力にすぐれています。
いろいろなボディーランケージを使うことで、おたがいの緊張関係をやわらげる術を身につけてきたのです。「けんかをする気はありません」「仲良くしましょう」と無言のサインを出すのです。仰向けになってお腹を見せるしぐさは、その中でも特筆すべきものと言えるでしょう。
愛の一部
実際に行なわれているイヌどうしの遊びをよく観察してください。
遊びの 途中で見られるこの “服従のポーズ “は無用な争いを避け、友好関係を築くために行なわれているという側面が見えてくることでしょう。
どう見ても力の強い大型犬が小型犬を相手に仰向けになってお腹を見せることもあるのです。
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観察を続ければ、はたして、このしぐさを「服従」のひと言で説明するのが適切なのかという疑問がわいてきても不思議ではありません(そもそもこの「服従」なる言葉。いかにも人間のものさしで測ったような言葉ではありませんか)。
この疑問は、「服従のポーズ」が、幼犬の頃の〝やすらぎの体験〟と結びついていることに着目するとさらに広がります。
子イヌは母親に体を舐めてもらいたいときに、地面に仰向けになってお腹を見せます。母イヌはそれに応えて子イヌを舐めてやります。
こう考えるのが、実は、最も自然なのです。
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