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"おなじ"を作ること(養老孟司『遺言』の読書感想)

 いうというのは、言葉を使うということであって、言葉を使うとは、要するに「同じ」を繰り返すことである。それをひたすら繰り返すことによって、都市すなわち「同じを中心とする社会」が成立する。

 上の引用は『遺言。』の中で著者である養老孟司さんが「いう」について述べている一説で、ぼくが大好きなところでもあります。ちょっと久しぶりに読んで見たら、やっぱりステキな表現や言葉のオンパレードだったので、書いて行きます。

 養老孟司さんの名前ぐらいは聞いたことが......なんて方はそれなりにいるとは思いますが、具体的に何をしてる人なのか、どんな人なのかって知らない人結構いるんじゃないかな。

 詳細はWikipediaを読んでいただくとして、『バカの壁』がベストセラーになった方でもありますが、「こころ」や「言葉」、それに社会で起こる事柄を医学・生物学の分野の知識を踏まえながらも偏りすぎず、あくまでも人の感情を大切にしながら論ずる方、なんてのがぼくの抱く養老孟司像。

 バカの壁は、いろんな方に読んでいただきたい本でもあるし、やっぱり大好きな本なのですが、今回は『遺言。』がテーマですから、紹介はこの辺で。

 冒頭の引用部分に戻ると、「いう=言葉を使う=同じを繰り返すこと』だとしている箇所について、ぼくはエラい納得感がありまして、言葉を使うのは他人に理解を求めるからこそ使うのであり、そこには「同じ」思いを抱いて欲しいのか、行動を「同じ」くしてもらいたいのか、求めるものは人によりますが、自分が体験した感情の揺らぎを他人にも同じように感じてもらいたいと思うからこそ、使うのが言葉なんだな、と。

 そこからアートに話が及ぶのですが、昨今、話題になりすぎて落ち着ききつつあるような印象がある拡張(人口)知能(AI)にアートが創れるのかを考える項の入り口で書かれている内容が以下。 

「同じ」に立脚する文明社会に、「違う」ものはないのだろうか。同じという機能を持った意識も、違うものがなければ具合が悪いと、暗黙のうちに知っているに違いない。だから文明とともに生じるヒトの典型的行為があって、それがアート、すなわち芸術となる。いうなればアートは「同じ」を中心とする文明世界の解毒剤ともいえる。

 言葉を使って、同じ体験価値を共有し、いわゆる文明社会と呼ばれるコミュニティを醸成してきた人間たちは、潜在意識の中で「それだけでは物足りないし、気持ちも悪い」と考えるからこそ、「違い」つまり、同じことから逸脱した行為であるアートが生まれた、と。

 これを基軸に論を展開していけば、いわゆるAIにアートは描けないであろうと。AIには根本的に「正誤」を扱う存在であり、無機質な正確さ、人間らしさを捨てた世界をつくる存在だとも言えるわけで、なぜに養老孟司さんはこれを言えるのかといえば、「世界が違うこと、変化を感じること」こそが人間らしさだと考えているからだ。

 「同じ」を目指して言葉を使い続けてきた人間が作った都市と呼ばれる人の集りは、極端なまでに均質化された街です。(言葉の矛盾はあえて使っています。悪しからず。)同じぐらいのビルが並び、風も吹き込まなければ、地面に凹凸もない、音も防げるようになっている建物がいくつもいくつも並ぶ景色が都市。

 これを養老孟司さんは「意味のあるものだけに囲まれた世界」と表現していて、その真逆にあるのが「自然」、つまり「意味のない世界」だとも。じゃー、意味のない世界に戻ればいいのかといえば、そんなことは思っていなくて、その確認だ、なんて言ってしまうところにシビれます。

 つまりは、この意味のない世界を「感じられる」人間は、異なる世界を許容できる素地があり、「同じ」ではない世界をつくることもできる。その同じではない世界が「アート」であり、これはAIにはつくれないよ、創れるわけがない。なぜなら「意味がないから」と。

 久しぶりに目を通すと、やっぱりウンウンと唸りながら読んでしまうわけです。本当に味わい深くて、読み応えのあるステキな本ですから、もし、興味が湧きましたら読んでみてください。

 何よりも、ぼくが惹かれたのはこの一文。本を開いたら、この一文が入ってきて、そりゃ、読まないわけにはいかないですよ。

 なんだか本が書きたくなったのである。

 ね、ステキでしょ。

 今日もお読みいただき、ありがとうございます。本は大好きなので、もっとこんな風に紹介していきたいのですが、積まれに積まれているため追いつきません 笑 今度、読書会でも開いてみようかな。


ぼく:遠藤 涼介/Endo-san (@ryosuke_endo

#スポみら (元 #スポーツの未来に僕たちができること )オーガナイザー。 第一弾、新潟経営大学イベントの資金調達を目的に行ったクラウドファンディングは3サイトで募集し、すべて目標達成(総合達成率140%)#新潟 を #前向きな空気の溢れるエリア にすべく活動中。


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