おやつ論文|育児と経済状況と親の健康
講義関連で読んだ論文に面白いものがあったので紹介。
…という表向きの理由の裏で,今月はネタがないから講義で読んだ論文を流用してしまおうという魂胆がある。
今回は「幼児期の子育てに影響を与える要因を疫学的に検討してみた」という内容(Waylen & Stewart-Brown, 2010)。
論文のタイトルは,
「Factors influencing parenting in early childhood: a prospective longitudinal study focusing on change」
子育てと子どもの未来
温かく支援的な育児は認知的,行動的,情緒的,身体的に影響する(Bradley & Caldwell, 1995などを引用)。そして,子どもがどう育っていくかは経済的・社会的要因と親の健康状態から影響を受けており,親子関係や問題行動に関わっている。
今回は,コホート(追跡研究)で収集されたデータから,子育ての経時的変化とその他の要因との関連を調べた。
検討した内容
1991年4月から1992年12月に,イギリスの保健局を通して出産予定の妊婦に声をかけて調査。8か月時点で11,314名,33か月時点で9,687名が分析対象となった。
検討した内容としては,以下の内容を質問している。
子育て(Method内で parenting measure(子育て尺度)を作成,項目内容は warmth and support, rejection and control の4つに関するもの)
経済状況(お金,家の所有,結婚状況)
ソーシャルサポート(周りからの支援,資源)
身体的健康度(自分が元気だと思うか)
抑うつ(エジンバラ産後うつ病質問票:EDPS)
子育てスコアの変化と他要因の変化の関連
経済的困難度(お金),家の所有,結婚状況,ソーシャルサポート,身体的健康,抑うつの変化と子育てスコアの変化の関連を検討した。
変化については悪化(decreases),安定(remains stable),向上(increase)の3つに分けて,各要因(3)×子育て(3)でχ²検定を行った。
結果,ソーシャルサポート※,身体的健康,抑うつが関係していることが分かった。
※ソーシャルサポートとは,個人を取り巻く様々な他者や集団から提供される心理的,実体的援助の総称(杉山,2022)。ほめたり共感したりといった心理的なものや,情報やお金などの支援も含む。
続いて,子育てスコアを結果(従属変数),経済状況の悪化と改善,ソーシャルサポートの悪化と改善,身体的健康の悪化と改善,抑うつの悪化と改善を影響要因(独立変数)として重回帰分析を行った。
結果は以下の通り。×は有意な影響を与えていない,○は有意な影響をあたえている。負は負の影響,正は正の影響。
経済状況
悪化 ○ 負
改善 ×ソーシャルサポート
悪化 ×
改善 ○ 正身体的健康
悪化 ×
改善 ○ 正抑うつ
悪化 ○ 負
改善 ○ 正
親の抑うつは悪化と改善どちらも影響していた唯一の要因(変数)で,影響要因が軽減することによる子育てスコアの変化の大きさは最も大きかった。
まとめ
論文のまとめとして,以下のような記述をしている。
多くの政策では,子どもの貧困を減らすことでより良くなるという前提で行われる。今回の結果はそれとは違う結果になった。貧困を減らすことを否定しているわけではないが,改善の可能性は低いかもしれない。これとは対照的に,親の健康に注目した政策はあまりない。(Implication より)
親の心身の健康を支援する政策は,子育てや子育てによる子どものその後により良い影響を与える可能性が高い。親の心身の健康を支援することから得られる子育てへの良い影響は,子どもの貧困を減らす政策よりはるかに大きい良い影響をもたらすと考えられる。(Conclusions より)
気になった点としては,疫学研究だけど社会的背景に関する記述統計がないことと,Methodの中で子育て尺度を作成していることが主な点でした(なお,この尺度については思うところも結構ある…)。
全体的,局所的に謎構成の論文なので読みながら違和感を覚える部分は多いけど,内容はかなり面白いので是非読んでもらいたい。
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