Self-Reference短歌3
ニワトリと卵の順序を入れ替えてそれでも君を愛しきれない
円城塔さんの連作短編集『Self-Reference ENGINE』に登場する巨大知性体(スーパーコンピューターの超進化形みたいなもの)をテーマに詠んだ短歌のひとつ。これは『Event』に登場する名前が出てこない巨大知性体のイメージ。
この小説は時空が砕け散った後の世界を描いているというのが最大の特徴なのですが、その時空の崩壊、通称『イベント』がいかにして起こったかをある時空の巨大知性体が、その時空に住む人間、敷島と話している体で進むいわば解説パート的なお話です。
スーパーコンピュータの開発競争が激化し、その計算速度を競ううち、コンピュータ自身が最速の計算である自然現象と化してしまいます。巨大知性体は「そよ風になった」と軽やかに表現しましたが、それと引き換えに世界は巨大知性体がシミュレーションするたくさんの宇宙に分かれてしまった、というのがイベントの日に起きたことと言われています。
人間が作り出したはずの巨大知性体が人間や世界を演算し定義づけるようになった今、彼らはほぼ全知全能となり、人間を生かすも殺すも、近似ではないという意味で言葉通り「元通り」に復元するも、あらゆる因果を決めたりひっくり返したりすることが自由となりますが、巨大知性体と人間の関わり方は単純に支配/被支配とはなっていないようです。
巨大知性体はあまりに小さな存在と目もくれていないようでもあり、儚いゆえに慈しんでいるようでもあり、そしていつか自分たちを脅かす存在に変わるのではないかとどこかで疑っているという複雑な視線を人間に向けています。
敷島個人をなんとなく気に入っているように見える巨大知性体が、それとは裏腹に彼ら人間を演算し尽くしてやろうと目を光らせる様が奇妙な力関係を表していて良いなという思いと、全知全能でもできないことがあるって面白いなという発想と、知悉したいって愛だよねぇという気持ちで詠みました。