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娘との関係を、いつかより良いものにするために。
めったに帰ってこない娘が帰ってくるとなると、それほど嬉しい事はない。
今回、正月に帰ってきたときもそう。
昨年義父を看取り、義母を施設に預けることにしたせいか、いつにない余裕を感じつつ、娘を迎え入れることになった。
娘にしてあげたいことが、自然と脳裏をめぐり、それはそれは楽しみにしていた。
親とは、本来は、こんな気持ちになるんだと実感したくらいだ。
娘がひとりで暮らすようになって、丸6年となるが、滅多に帰ってこなかった。
珍しく帰ってきたと思えば、友人との約束で手いっぱいで、私も家のことや自分のことで手いっぱいで、ほとんど会話をすることもなく、迎え入れ、送り出した。
大学で友達と仲良くし、部活をしながら、バイトや勉強もそこそこ頑張っているのは分かっていたし、時間に余裕がないこともあって、自分から必要以上に、かかわろうともしなかった。
忙しい日常に、新たなストレスはご免だし、娘も必要以上には、かかわってこようともしなかった。
もちろん、夫に対してもそう。
そんな私が、今までとは少し違う気持ちで、娘を迎え入れた。
こちらから距離を縮めるために、部屋でくつろぐ娘へ歩み寄ったが、お互いの間を流れる空気感が、ずっと良いものであるとは限らない。
時には、不穏な空気が流れる。
私に対する受けごたえが、つっけんどんだったり、ちょっとしたことが気に入らないと、きつい物言いで私を責める。
夫も、娘のモノの言いかたを指摘する。
全く関りがないと、そういう思いもしなくていいのだろうけど、関わりをもつということは、何かしらしがらみもついて回るので、そこにいろんな感情が入り混じるのは当然のこと。
必要以上には、こちらには立ち入らないで。
その叫びもよく分かるが、感情をもっている人間である以上、時折、腹が立つこともある
久しぶりに会話を交わしたかと思えば、早速、娘のその物言いに感情的になった。
先に感情的になったのは娘だ。
そんなこと言ったって、これだけ距離が離れていれば、心配するのが当たり前やろ。「親」ってそんなもんやで。
言い返すと、その上に被せるようにして、娘が返そうとする。
アカン・・・。
そういう時は、とりあえずその場を離れる。
めったにない娘とのやり取りに、動揺を隠しきれなかったが、とりあえず自分の部屋でクールダウンすることにした。
感情の上に感情をのせても、いいことはヒトツもない。
それは、私が身をもって学んできたことなので、相手が夫であっても、まずその場から離れる。
部屋に戻っても、腹ただしい気持ちは収まらなかった。
だいたい、親に対して感謝の気持ちはあるの?
娘にも、落ち度があるから、こういうことになるんちゃうん?
思いは、実にグロテスクでネガティブで攻撃性のある言葉となって、脳裏をめぐる。
いま、娘にどんな言葉をかければいいのだろう・・・。
放っておいてもよいのだけど、放っておくのは一番よくない。
私は母屋にふたたび足を運び、玄関から、扉のむこうの娘へ話しかけた。
ごめんな。
気を悪くしたなら、母ちゃん、謝っとくわ。
とりあえず、謝る余地は私にもあると踏んだので、謝り、そして、「愛のある言葉」をかけた。
感情的になっていると、どうしても憎しみの言葉しか思いつかないけど、冷静になってみると、その裏には「愛のある言葉」もあることに気付く。
私が冷静になって考えたその言葉を、娘に語り掛けた。
娘が返事をしてくれたことが救いだった。
娘を見送る車中で、お年玉をわたし、その場で言えることを言って見送った。
「もし、家賃も払えないくらいに路頭に迷うことがあったら、帰っておいで。実家でもういちど人生を、考え直してやり直すことだってできるよ。
外での生活に援助はできひんけど、交通費位やったら出すから、また、帰っておいで」
そう言って見送った帰りの車中で、夫と娘とのこれからを話した。
感情に対して、感情で答えたらおわり。
その裏には、きっと愛のある言葉もあるから、その言葉がけをするのがいいと思うねん。
一番悪いのは、何もせずに放っておくこと。
だから、私は親としてできることをする。しつこくならない程度にね。
今のところ、仕送りを送ることくらいしか、思いつかんけど、それでもいいんちゃうかなぁ。
繰り返しすることで、娘の気持ちに、何かしら定着することもあると思う。
あとは、帰ってきたときに、みんなでご飯を一緒に食べるとか、そういうことも大事なんやろね。
もし、娘の受けごたえの中に、思いやりだとか私たちへの感謝の気持ちが感じられへんねんやったら、それはもう「しつけ」でどうこうできる年齢ではないから、待つしかないんちゃうかなぁ。
娘がもっと大人になるまで。
私自身が、親(母)とあんな感じやから、何が正解か分からへんけど、多分それが正解ちゃうかなぁ。
一番悪いのは、放りっぱなしにしておくこと。
感情に対して、感情で答えることを繰り返してたら、溝が深まって行って、取り返しつかんようになることもあるしな。
牙をむいて感情で答えるようなことは、したらあかん。
夫は時折頷きながら、黙って聞いていた。
今年より、来年、来年より再来年。
少しずつ、良くなっていったらそれでいいやん。