組織内でカルチャーがすり合っていると何がよいか『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#2】
8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。
組織内でカルチャーがすり合っていると何がよいか
「弊社は人を大切にしています」「この会社の宝は、人です」―。
経営者や人事担当者からしばしばそういった言葉が聞かれます。
けれども果たして、本当に「人を大切にしている」と言える会社がどれだけあるでしょうか。
新卒として入社したら、一律に新入社員研修が行われ「社会人としての心構え」を叩き込まれ、個人の希望はほとんど叶わないまま、無作為に配属が決定する。
仕事のやり方は上司や先輩から「見て覚えろ」「このフォーマットを使え」と、わけもわからないまま一方的に伝えられ、「こんな仕事に意味はあるのだろうか」と疑問を持った若手社員は、入社2、3年も経たずに辞めていく。
あるいは、転職社員。
「会社の空気を変えてくれ」「忌憚なき意見で新しい事業をつくってくれ」と期待されながら、「ウチの会社のやり方」に馴染めず、周りのプロパー社員から「浮いた人」扱いされる。
思うように周囲や他部署の協力が得られず、どんどん孤立していき、成果が出せずに低迷していく。
チェンジリーダーは少しずつ「死んだ目」になって、会社の上層部は「期待してたほどではなかったな」と首をひねる。
そして、優れたリーダーのもと優れたプロダクトやサービスを生み出し、事業成長著しいスタートアップ企業がいざ急速に組織を拡大させるとき。
やみくもに能力やスキルの高い社員を引き入れたことで、お互いあまりにカルチャーが違うことに戸惑い、次々と退職し、離職率が高くなっていく―。
こういった場面に遭遇したことが、きっとあなたにもあるでしょう。
だからといって、私は「このような会社は人を大切にしていない」と言いたいわけではありません。
むしろ「人を大切にしている」と経営陣も人事担当者も考えていて、人の力に期待して人材を採用しているはずです。
それでも、こうした不幸が起こってしまうわけです。
経営において、ビジネスとカルチャーは両輪
ここでお伝えしたいのは、企業は事業戦略として「ビジネスモデル」を考えるのと同様に、組織戦略として「カルチャーモデル」もロジカルに考え、同等の重要度で検討するべきだということです。
顧客が製品の「ブランド」に興味関心を持ち、惹かれ、好感を持つように、働く人が興味関心を持ち、惹かれ、好感を持つのは、企業の「カルチャー」です。
企業の多くは経営戦略を考える際、プロダクトやサービスといった事業の戦略から検討します。市場動向や自社のコアコンピタンス(核となる強み)、ターゲット、ポジショニングなどを踏まえたうえで、プロダクトやサービスを開発し、いかにそのブランドを顧客へ届けるか。
カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を向上させ、顧客満足度を高めることが重要となります。
そうであるならば、組織戦略にも同じことが言えます。
人材市場動向や自社のコアコンピタンス、ターゲット、ポジショニングなどを踏まえたうえで、自社らしい人事制度や育成の施策を導入し、いかにそのカルチャーで優秀な人材の心を掴むか。
エンプロイーエクスペリエンス(従業員体験)を向上させ、エンゲージメント(会社に対する愛着・信頼や絆)を高めることが重要となるわけです。
多くの経営者や人事担当者は漠然と「優秀な人がほしい」「ウチの会社に合う人に来てほしい」と考えているでしょう。
けれども重要なのは、そもそも優秀とされるのはどんな人材で、自社に合うのはどんな人材なのか。
そしてその後ろ盾となるカルチャーとはどんなものなのか、明らかにすることです。
さらにこの少子化の時代、人材市場の競争はますます激化しています。
事業戦略やビジネスモデルを語るなら、そのもう一つの柱となる組織戦略やカルチャーモデルを考えなければなりません。
企業におけるカルチャーは事業にも直接的に影響し、戦略を設計するための羅針盤にもなります。「カルチャーの構築は経営戦略である」と認識するべきなのです。
著者プロフィール
唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)
Almoha LLC, Co-Founder
大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。