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カルチャーがビジネスのスピードを圧倒的に速くする『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#4】

8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。

カルチャーがビジネスのスピードを圧倒的に速くする

スタートアップの経営者は事業の拡大とともに組織が拡大していくとき、こんな壁にぶつかることがあります。

社員がトップに「お伺いを立てる」ばかりで、トップが何もかも意思決定しなければ物事が進まない。

「お前に任せる」と部下に権限委譲したところ、自分では想像もしない意思決定をして、失敗してしまった―。

「自分があと10人いれば、この会社はもっとうまくいくのに」。優れたリーダーほど、そう考えてしまうことは多いでしょう。

こうした「悲劇」がなぜ起こってしまうのか。それはひとえにカルチャーが浸透していないからです。

カルチャーはいわば、会社にとって何を優先すべきで、どんな意思決定をし、どんな戦略を立てるかを考える際、指針となる羅針盤のようなもの。

会社のトップやリーダーに成り代わって、目に見えないところで働いてくれる優れものです。

たとえば、1年前に立ち上げたばかりの新規事業がなかなか利益を出せず、ずっと赤字を垂れ流しているとします。

はじめのうちは意欲に燃えていたチームメンバーも、少しずつ疲弊し、モチベーションを見失いつつある。

そんなとき、事業責任者はどうすべきでしょうか。

「つらい時期だけど、市況が上向けばまだ見込みはあるはず。なんとか細かく数字を積み上げてくれ」とハッパをかけるのか。

それとも「立ち上げ期とは状況が変わってしまった。競合のほうが圧倒的にシェアを取っているし、投じる資金力にも差がある。ここは大きな傷にならないうちに撤退して、新たなビジネスモデルを検討するべき。他部署にも呼びかけて可能性を探ろう」と考えるのか。

どちらが「正しい」判断となるのでしょうか。

このとき、会社によってその「正しさ」は違います。

バリューで「顧客志向かつ長期的な目線で考えよう」と示されている企業であれば、前者を選択し、より顧客目線でサービスを検討し、カスタマーエクスペリエンスを向上するための施策を考えることになるでしょう。

あるいは「スピード! どんなときにもスピード重視で考えよう」というバリューを持つ企業なら、後者の選択を取り、一から仕切り直す道を選ぶでしょう。

ここで一つ、具体的な例を示しましょう。

経済産業省及び環境省により、2020年7月からレジ袋の有料化が制度化されました。

これへの対応として、コンビニ最大手のセブンイレブンはレジ袋の有料化を発表する一方で、北海道でコンビニを展開するセイコーマートはレジ袋の有料化を延期する判断をしました。

いずれも、レジ袋のバイオマス素材の配合率が25%を超えているため、政府のガイドラインによれば、有料化は必須ではありません。

しかし、企業の対応はこのように分かれたのです。

セブンイレブンは、「私たちは いかなる時代にもお店と共に あまねく地域社会の利便性を追求し続け 毎日の豊かな暮らしを実現する」という企業理念を掲げており(*5)、2019年にセブン&アイグループが発表した「グリーンチャレンジ2050」という環境宣言でCO2排出量削減などの目標を設定しています。

セブンイレブンはこうした理念で組織が一貫して動いているため、「有料化」に踏み切ることでレジ袋の使用量を減らすことを優先する対応を取ったと考えられます。

対してセイコーマートを運営するセコマグループでは、「ここにあるおいしさを、お手ごろに」というタグラインを掲げています(*6)。

彼らは、バイオマス素材の配合率を高めて環境には配慮しつつも、「お手ごろに」という方針に沿ってお客様の負担が増える選択肢を取ることはしなかったということです(新型コロナウイルス感染症拡大の影響で経済に打撃があったことが理由だとも説明しています)(*7)。

この事例は、どちらが正しい対応だったかということではなく、カルチャーに沿ったその会社らしい納得感のある意思決定をそれぞれ行っているという点に意味があります。

企業としてビジョンやミッション、バリューなどを明確にし、そのカルチャーを醸成していれば、こうした意思決定を行う際の不要な議論を避けることができます。ビジネスにおいては、50:50で判断に迷うようなケースでの判断が求められます。

そうしたときに、正解のない中で延々と議論するのではなく、自社のカルチャーのもとにスピーディに判断し、ビジネスを前進させることができます。

意思決定後も、「なぜそうするのか」を周知することに時間をかける必要はありません。

「確かにウチの会社なら、そうすべきだよね」と誰もが納得するようになるのです。

そして、カルチャーが浸透していれば、重要な意思決定に際し、経営層の指示をその都度仰ぐのではなく、担当チームレベルでも一定の方向性を示すことができます。

それが可能になれば、ビジネスのスピードは飛躍的に上がるでしょう。

この変化の激しい時代、組織内でコンセンサスを取るのに時間をかけていては、時流の変化についていけません。

カルチャーは、スピード感を持ってビジネスを推進するのに不可欠なものなのです。


著者プロフィール

唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)

Almoha LLC, Co-Founder

大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。


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