
パップとカパーナ、会いに来て【ナミビア滞在記】
ナミビア出張中です🇳🇦明日帰ります!
1/20(月) 曇り
パップとカパーナ。
刑事アニメの主人公コンビみたいな名前だ。でも違う。
ナミビア料理である。カパーナは焼肉、パップはマハング(トウジンビエ)の粉を炊いて練り上げたお餅みたいな食べ物だ。

カパーナ(Kapana)はナミビアのソウルフード。売っている露店まで同じ名前で呼ばれている。露店が並んだ市場に行くと、細く切った味見用の肉を、網の手前に置いてくれる。人気店には列ができる。屋台同士はライバルだが、足りない調味料を貸し借りして助け合ってもいるようだ。
どれも同じじゃん! と最初は思うが、食べ比べると違いが分かる。脂身の多さや味付け、焼け具合。肉の種類や部位は店にもよる。大柄なフォークで肉を引っ掛けて熱い網からまな板に空中ブランコの要領で移動させる。平たく大ぶりな肉をナイフで叩くように、でもナイフの先はまな板につけたまま勢いよく切っていく。

切った肉は皿か、新聞紙やチラシで包んで渡してくれる。今回の付け合わせはタマネギだ。価格は30~40ナミビア・ドル(約260~350円)ほど。味付けには塩胡椒を振る場合もタレに漬け込む場合もある。筋がある肉がぼくは苦手だが、カパーナは柔らかい。聞いた話では、ナミビア人は「家畜が放牧されているから、柔らかくて美味いんだ」と胸を張るそうだ。
パップはアフリカでよく見られる穀物の練り物だ。国や地域により材料や名前、調理法が異なる。トウモロコシで作ることも多いが、ここナミビア北部は年間降水量が300mmを切る年もある。トウモロコシを育てるには乾きすぎているので、より乾いた環境でも育つヒエを使う。キャッサバのようなつなぎを使わないので、お餅と書いたが、指で千切れて、口の中でしっとり溶けていく。

テイクアウト版
料理の「たられば」を想像するのは楽しい。ナミビア北部が雨の多い地域だったら野菜が育てられただろう。サンチュのように葉物で包む文化が発展したかも。漬け込んだ肉に新鮮な野菜は生姜焼きみたいで絶対美味しい。
でも、カパーナやパップは厳しい自然環境の中でこそ生まれた料理にも思える。工程や素材が最小限に絞られているからだ。もっと食べてみないと分からないことがたくさんある。
1/21-23(火から木) 雨のち曇り、雨のち曇り、曇り
ナミビアに来てから、買い物が不便だ。
なぜだろう、と考えて分かった。お釣りと値付けが細かいのである。そのせいでレジがなかなか進まない。
ナミビアの通貨はナミビア・ドル(NAD)で、1NADは8円強。流通している通貨単位は0.1~200NAD(約0.8~1,800円)である。5NAD以下は紙幣ではなく、硬貨だ。買い物をすると、消費税15%を入れて小数点第2位まで表示される。100NADや90NADではなく、98.91NADになるのだ。でも小数点第2位以下の貨幣は流通していないので、切り捨てた98.9NADを支払うことになる。
これが面倒だ。お札で払うと毎回硬貨が返って来て、財布が重くなる。なんとか硬貨を消費しようとするが、大きさやデザインも似ていてまごつく。みんなどう硬貨を使っているんだろう。

この三日間は珍しく雨が降った。ウガンダ北部のような東から西に流れる雲が気まぐれに降らせるスコールではなく、空全体を覆う雲が降らせる弱い雨。雨の降り方すら違うのだ。
1/24(金) 晴れ
仕事の山場が終わって(今週は大変だった!)国内線に乗り、北部から南部の首都ウィンドフックに戻る。飛行機が離陸するとすぐに水たまり──「池だまり」と呼びたくなるほど巨大な──が見えた。この水たまりは現地のオシワンボ語で「オシャナ」と呼ばれ、州名の由来になっている。乾季には干上がるそうだ。

1/25-26(土・日) 曇り、晴れ
夕食の席で、仕事で一緒になった方が「ぼくなんか(アフリカの)マラウイに二十年近く住んでましたけどね、マラウイのこと何も分かりません」と話していた。この場合の「何も分からない」はもちろん一般的な基準からするとそんなわけないのだが、ご本人には謙遜ではなく本心だろう。夜、眠れなくて本を開く。
「急ぐことはないわ」と火見子が慰めた。
「ああ、急ぐことはない。ぼくはずいぶん永いあいだ、本当に急がなければならないことにぶつかったことがないような気がするね」
27日にナミビアを発つ。二週間の出張は二十年よりずっと短い。目を瞑る。何かをゆっくり知ることをあきらめたくないな、と思いながら。
(おわり)
▼▼先週の日記▼▼