「“従業員満足度”が第一」と語る、株式会社スマイルリンクル代表・須藤 剛が考える外食産業
「飲食と、ともに。」は飲食店経営者、従業員など“飲食”とともに生きる人の人生にフォーカスするnote連載です。過去の経験から生まれた考え方、経営や仕事へのこだわり、外食産業へのメッセージを届けることで、外食産業をともに盛り上げていくことを目的としています。
今回は、株式会社スマイルリンクル代表取締役 須藤 剛さまにお話を聞いてきました。
自身の苦悩から共感した、“従業員を大切にする”という考え方
学生時代に野球に打ち込んでた須藤さん。地元で1番野球が上手いと自負していたが、高校へ進学すると自分より上手い選手ばかりで、打ち込みたいこともなくなり、夢も砕けてしまった。将来何をやっていいのか分からなくなっていたタイミングで、義理の叔父であり現スマイルリンクル会長の森口に誘われ、スマイルリンクルへの入社を決めた。
これまで経験したことがなかった飲食業界にいきなり飛び込んだ須藤さん、初めは投げ出したかったし、辞めたかったと話してくれた。何をきっかけに飲食の道でやっていこうと思ったのかを聞いてみると、「お客さんの“ありがとう”ですね。お客さんに喜んでもらってお金がもらえる、それを間近で感じられる飲食って、なんて素敵なんだろうと感じた瞬間がありました。その時、飲食業って素晴らしい、楽しいと思ったんです」と、笑顔で話してくれた。ここから飲食業の楽しさにのめり込み5年ほどメンバーとして働き、徐々にマネジメントも行うように。当時23歳だった須藤さんは、マネジメントの難しさを痛感する。人がいなければ何も上手くいかない、協力体制を築く必要があると感じ、チームづくりや人材育成を学び始めた。そんな中、ある飲食向けの勉強会で“従業員満足度の重要性”についての話を聞いたことが、須藤さんの考え方を大きく変えたという。世の中的に【顧客満足度>従業員満足度>仕組みづくり>人材育成>成果】という流れを想定されることが多いが、実は1番大切なのは従業員満足度。「従業員満足度がないと顧客満足度も上がらない」という考え方に衝撃を受けたとともに、須藤さん自身がマネジメントを任せられ、メンバーの協力がなければ何もできないことを感じていたからこそこの考え方に強く共感した。
“従業員満足度が重要”の考え方が確信に変わった瞬間
店長、マネージャーと順調にキャリアを伸ばし、この頃には既に“飲食人”として生きていくことは決めていた。起業をし、自分のお店を持つことに憧れもあった須藤さんだが、スマイルリンクルに留まることにしたターニングポイントが訪れる。
銀座にあった店舗のスタッフがほとんど辞めてしまうという事態が起きたのである。これはまさに先述したように、店長のマネジメント不足による従業員満足度が低い事に起因するものだった。須藤さんはマネージャーとして急遽その店舗に入り、店舗の売上立て直しを任された。須藤さんは、残ったメンバーに向き合い続けることを決意し、「このスタッフは何のために、何をモチベーションとして働いているのか」などを細かくヒアリングし、相手のことを知る努力から行った。半年ほど経つと、初めは“店長”というものに対して反発をしていたスタッフたちもだんだんと須藤さんへ信頼の眼差しを向けるようになり、協力体制を築くことができるように。1年ほど経つ頃には新たなメンバーも増え、売上は当時の倍以上にまで伸びた。スタッフの心にもさらに大きな売上を作っていきたいという気持ちが芽生え、接客スキルも大幅に伸び、店舗の未来を語るまでになっていた。このできごとを通し、“従業員満足度”がお店の売上・成長に繋がるということを確信した。
スマイルリンクルに人生をかけると決めた瞬間
須藤さんは店舗立て直しの取り組みが評価され、このタイミングから取締役に就任した。しばらく取締役を担い、夢でもあった起業を考えていた時、飲食仲間の飲み会中に当時代表の森口から「社長やりなよ」という言葉をもらう。須藤さんは「タイミングが来たら」と伝えたが、「この言葉をもらったタイミングで決めないと、もうこのチャンスは来ないかもしれないのに、何を言っているんだ。決断しろよ」と飲食仲間から喝が入る。ハッとした須藤さんは、ここで代表を引き継ぐ決意をした。
さらに須藤さんは、「会社を自分に売って欲しい」という大きな決断を下す。代表を引き継いだ雇われ社長では、自分の決断に責任が持てないと思ったから。やるなら人生をかけて会社を、メンバーを守っていきたいという気持ちから出た発言だった。
代表を引き継いだ当時、スマイルリンクルにはミッション・ビジョン・バリューがなかった。これではいくら経営層が努力をしても、スタッフへの浸透・定着が難しいと考えた須藤さんは、ミッション・ビジョン・バリューの策定を行うことにした。
須藤さんが育てる、“スマイルリンクル人”
スマイルリンクルは『関わる人々の「笑い皺」を「食」を通じて想像する。』をミッション=使命とし、ここから逆算してビジョン・ミッションを設定している。ミッションを達成するためのあるべき姿として“スマイルリンクル人”というものを定義し、「スマイルリンクル人であること」がビジョンとなっている。そしてスマイルリンクル人とは何かというと、バリューにもなっている通り、人間力・飲食人力・魅力の3点を取り揃えているスタッフだ。
須藤さんは“ビジョン=スマイルリンクル人”に紐づく小項目ごとの評価をX軸に、スタッフ個人のキャリアパスをY軸に置いた評価制度を取り入れ、各スタッフがなりたい将来像に合わせて評価を行うと共にミッション・ビジョン・バリューに立ち返るきっかけも作っている。
中期経営計画から個人目標にまで落とし込めるよう1本化されたミッション・ビジョン・バリューを策定したわけだが、こうすることで先述したような“従業員満足度”が上がり、お客様に対する接客スキルも向上し、リピーターが増え結果として店舗の売上も向上するというサイクルを作り上げることができた。他にも須藤さん自ら週に1度社内報を発信するなど、社員を一体化させる取り組みを自主的に行っている。
「スタッフにもっともっと向き合うため、人がやらなくていいことは全てダイニーに任せていきたい」と、ダイニーと共に会社を良くしていきたいという話もしてくれた。
自分のやり方で、外食産業を盛り上げる
「居酒屋を失くさない」、これが須藤さんが目指す未来だと話す。外食産業は他の業界に比べ、企業数が多い。無数にある飲食企業が一致団結しなければ、外食産業を盛り上げることはできない。そのために、須藤さんはNPO法人居酒屋甲子園や一般社団法人J F R Xなどさまざまな団体に所属し、タイアップしてイベントやセミナーを主催するなどして外食産業全体のつながりを強める取り組みを行っているという。
「みんなで手を取り合わなければ、日本の文化はなくなってしまう。共通の価値観を持ちながら業界をイノベーションを起こすことは、必ずできると信じています。互いの強みを活かしながら日本を良くしていく架け橋になりたいです」と熱く話してくれた須藤さん。飲食店経営のみならず、本気で飲食業界を良くしていくための須藤さんの取り組みから今後も目が話せない。