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ゲーム屋人生へのレクイエム 49話

「前回からの続きでゲームの話をしようじゃないか」

「今回はあらすじないですね」

「ないよ。気になる方は遡ってお読みください。さて本題。

業務用基板の修理をやってたんだけど、その仕事も量がだんだん減ってきてね、手が空くようになってきたのよ。それでプロダクトマネージャーの下で家庭用事業部の仕事も手伝うようになってさ」

「あのー、プロダクトマネージャーってどんな仕事なんですか?」

「商品の選定、これには移植あるいは開発が含まれる。宣伝、流通、販売まで全般的にプロジェクトをコーディネートするポジションの事だよ。マーケティングまで含めることもある」

「宣伝とマーケティングって違うんですか?」

「似てるけど違う。宣伝は商品の告知のことを指す。マーケティングは読んで字のごとしマーケットを作る、顧客を生み出すということだよ。既存の市場を拡大することもあるし、存在しない新たな市場を創り出すこともある。そうだな、例えるならスマホ。スマホの前には普通の携帯電話があった。その前はポケベル。これらは当時どれも世の中に存在しない市場を創ったとも言えるし、それ以前の市場を拡大したともいえる。どれも主な機能はワイヤレスでコミュニケートするということだから類似製品と言っても差し支えない。けれどそれぞれの製品はそれまでの製品とは比べ物にならないくらいの優れた機能がついているよね。そこがマーケティングだよ。ポケベルではできないことがスマホではできる。それがどれだけ顧客の欲求を満たすことができるのかを考えて、製品として組み立てる。どうやって売ればいいのか、どうすれば最も効果的に世に知らせることができるか。ブランディングにもつながっていくことだね」

「あの、質問なんですけど」

「はいはい」

「ポケベルってなんですか?」

「ああああ、そこなのね。もともとはポケットサイズの受信専用機でただ音が鳴ったり振動するだけの装置だったんだけどちょっとづつ進化して電話から送られた数字を表示する液晶画面がついたり送信もできるものやテキストを使えるものもあった。携帯電話が普及すると消滅した過去の遺物だよ」

「振動だけとか数字の表示だけだと不便ですね」

「そう、そこ。まさにそこなのよ。数字が画面に出ればいいな。送信もできたらいいな。テキスト送信もできたらいいな。電話もできたらいいな。って携帯電話が開発されて普及するのよ。できたらいいなを具現化するのがマーケティングだよ。世の中の声なき欲求を掘り起こして商売にするのがマーケティングだな」

「今日はずいぶんまじめに話をしていますね」

「そうね。マーケティングについてはもっと前から勉強しておけばよかったと後悔したことがたくさんあってね。宣伝と同じだろうと考えていたから失敗したことがいっぱいあるのよ。なので今回マーケティングについては本気ではなしをしているぞ。

ゲームを開発して売るということもマーケティングを無視することはできないぞ。競合が無い、もしくはとても少ない市場へ製品を投入する場合、先に世に出たものの二番煎じでも、ある程度は売れることが期待できる。それに甘んじるかどうかはともかく、市場の欲求に答えることができるタイミングと質量、質量というのは許容されるクオリティと消費可能な数だけを供給できることだ、このバランスをうまくとることができればボチボチの商売はできる。だけど勢いにまかせてクソゲーを大量に世に出せば瞬間的には売れるかもしれないが、その後は地獄が待っている。製品と会社に対する信用を大きく損なうことになるからね。その昔アメリカのゲーム市場を襲ったアタリショックがこれに該当するね」

「なんですかアタリショックって」

「アメリカにアタリという会社がかつてあってね。自社のハードで粗悪ソフトを乱発してね。E.T.という映画を題材にしたクソゲーを大量に市場に供給したらまったく売れずに市場崩壊したことがあった。これがアタリショックだ。

小売店は売れない在庫を抱える。仕入れた価格よりも値下げしても売れないから最終的には産業廃棄物として捨てたという逸話もある。小売は売れなかったクソゲーの代金支払いが滞る。問屋は売掛金の回収ができないからメーカーに対しての支払いが滞る。メーカーは売ったゲームの代金が回収できない。メーカーの株主は業績不振の会社の株を叩き売る。投資家はすべてのゲーム会社の経営を疑って株を手放すから業界全体の株価が下がる。そして何よりも恐ろしいのは消費者の信用を失ったことだよ。メーカーが販売する製品を消費者が安心して買うことができなくなったことは最も大きな損害だったと言えるね。

このあとアメリカの家庭用市場は長い冬の時代を迎えることになったのよ。メーカーは市場と消費者、そして株主に対して大きな責任がある。大企業であればあるほどその影響力は大きい。クソゲー作っちゃった、ごめーん、次はがんばりまーす。とかは許されないのよ。その会社の問題だけではなくなるからね。最近なんとかパンクとかいうゲームに大きなバグがあって問題になってるけど、あれだって下手したら市場の信頼を大きく損なう可能性があるぞ」

「ゲームって遊んで楽しい娯楽って思っていましたけど現実はシビアなんですね」

「そう。知らない人から見れば、なんて楽しそうな業種なんだろうって見えるかもしれないけど、現実はすごくシビアだぞ」

「今回は熱く語ってますね。いつもの倍くらいの文字数ですよ」

「うむ。ちょっと本気になってしまったな。真面目なはなしでオチがなくてどうしようかと考えている」

「いいじゃないですかオチがなくても」

「おお、オチ見つけたぞ。クソゲー出して市場を壊したのはアタリショックじゃなくてハズレショックだ」

「あーあ。だからオチはいらないって言ったじゃないですか」

「ショック」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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