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ゲーム屋人生へのレクイエム 29話
前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。アメリカ就労ビザを却下されて待ちぼうけを食っている間に業界の闇を覗いてしまう。そしてもっと深い闇に包まれてしまいそうになったときのおはなし。
「焼き肉食いに韓国に行こう」
「何ですか。いきなり」
「日本に滞在中にアメリカの社長が日本に戻ってきててさ。取引先に会いに韓国へ行くから一緒に行くぞって言われてさ」
「焼き肉を食べに行ったんじゃないんですね」
「食べたよ。一週間ほど韓国には居たんだけど毎日違う取引先と会ってさ。毎日接待してくれてさ」
「いいじゃないですか」
「来る日も来る日も昼夜焼き肉で、一生分の焼き肉を食ったんじゃないかと思うくらい食ったよ。出張最後の夜は、さすがに参って、こっちで選ばせてくれって言って、居酒屋に連れて行ってもらった」
「よかったですね。で、居酒屋で何を食べたんですか?」
「えっと、生きたタコの足をごま油と塩で食って・・・。ちょっと、食いものの話をしてるんじゃないよ。ゲームの話しでしょ」
「これまでもゲームの話でもない気がしますが・・・。」
「まあ聞きなさい。それでだな、取引先から秘密厳守を約束ならってことである会社を紹介してもらってさ」
「どんな会社なんですか?」
「コピー屋」
「え?コピーって紙をコピーしたりって、あれですか?」
「ちゃう。ゲームのコピー屋」
「ゲームをコピーってどういう事ですか?」
「基板をそっくりコピーする商売だよ」
「そんな事できるんですか?」
「できる。この目で見た」
「どうやって?」
「本物の基板の部品を全部はずして調べてコピーする。気の遠くなるような作業だけど、技術的には普通に可能なのよ。
ほとんどの部品は市販品で簡単に手に入る。プログラムの入ったEP-ROM.、さっき話ししたでしょ。18話だったかな。
中身を書いたり消したりできる半導体は簡単に中身を吸い出せる。グラフィックデータが入ったマスクROMとか中身を隠してある部品も薬品で外装を溶かして電子顕微鏡写真撮って回路解析するとデータの抽出ができる」
「へえええ。でもそんな大変な作業をしてまでコピー作って儲かるんですか?」
「儲かるからやるんだよ。当時は何ちゃらファイターとか言う格闘ゲームが世界中で売れててさ。どの客もこいつが欲しい。本物は値段も高いけど、それ以上困るのはメーカーが売る本物は数に限りがある。そんでもってメーカーはどこの馬の骨か素性のわからない相手には売らない。どこかに転売されるんじゃないかって心配なのよ。そこでコピーの需要が出てくるという訳さ。
金さえ払えばだれにでも売る。数に限りもない。そしてその何ちゃらファイターをコピーして売りまくってた集団がいたのよ。コピーの商売って分業制でさ、仕掛ける集団、売る集団、コピーする集団、生産する集団って分かれているんだよ。売掛金の取り立てをする集団もあったな」
「すごい話ですね」
「組織的な集団による大規模な偽造だよ。リスクもあるよ。摘発されるかもしれないし、敵対する集団との抗争もあるし。それでも儲かるからやるんだよ」
「怖いですね。まるでマフィアみたい」
「ありゃマフィアだね」
「あの、それで何の用でこのコピー屋さんと会ったんですか?」
「そりゃ決まってるでしょ。コピーを作ってくれって仕事を依頼しに行ったんだよ」
「コピーの依頼!?犯罪じゃないですか!」
「そうだよ。でも商談成立しなかったから未遂かな。こっちの資金不足で話は物別れになったよ」
「で、どんなゲームのコピーを作ろうとしたんですか?」
「秘密厳守だから言えない」
続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。