ゲーム屋人生へのレクイエム 21話
前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。南米出張から戻ってしばらくしてからのおはなし
「残念だが、日本に帰ってもらうことになった」
「ええーっ」
「副社長からそう言われてさ。冗談かと思ったらマジでさ、何のことだかさっぱりわからなかった。
日本じゃバブルはとっくの昔にはじけてたんだけど、ゲーム業界にも不景気がやってきたんだよ。それまでは世間の景気が悪い時にはゲーム業界は景気が良くなるとか言われてたんだけど、今度はそうはいかなくってさ。特に業務用の景気がどんどん悪くなってきててさ。アメリカでもゲーセンが一軒、また一軒って感じで廃業し始めてさ。家庭用に市場を食われたんじゃないかとか言う人もいたけどさ。
それで俺の働いていた子会社も規模を大幅に縮小することになってね。俺は帰任して、現地スタッフもほとんどがクビになることになったんだよ。悔しかったなあ。せっかく海外面白いってやる気満々だったからさ。でもサラリーマンだから会社の命令には逆らえない。5年の任期で赴任したけど半分くらいで日本に帰ったよ」
「それでどうなったんですか?帰国して開発に入ったんですか?」
「いやいや、そんなに簡単に開発には入れない。それでひどい話でさ。戻ったら、とりあえず元居た工場に出社したんだけどさ、出向するまで勤務してた品質管理に行ったら、そんな異動の話は聞いてないからここじゃないよって言われてさ。それで工場長のところへ行ってどこへ行けばいいんですかと尋ねたら、どこにも席が無いって言われてさ。急に帰任が決まったし、どこも人は足りてるからってさ。マジで行くところがなかったのよ。で、しょうがないから生産開発本部っていう仰々しい名前の部署の端っこの机に座ることになってさ」
「かっこいい名前の部署じゃないですか。そこで何をしてたんですか?」
「毎日会議用の資料のコピーしてた。あと、パソコンとソフトの使い方を覚えた」
「生産開発っぽい仕事してないじゃないですか?」
「してないよ。だって人は足りてるから俺のやることは何もなかったし。退屈な時間を過ごしてたよ」
「せっかくアメリカに出向したのに勿体ないじゃないですか」
「そうね、勿体ないね。アメリカ出向中に学んだことは一切使わなかったね」
「よくそんな暇なところで我慢できましたね」
「我慢してないよ」
「してないんですか?それじゃあ・・・」
続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。