ゲーム屋人生へのレクイエム 19話
前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。ファミコンのゲームデータをROM焼きして遊んでいたころのおはなし
「ちょっとブラジルへ行ってきてくれ」
「唐突ですね」
「副社長に言われたんだよ。ブラジルへ行ってこいって。あの頃は中南米業務用ゲーム市場の景気が良くてね。特にブラジルはすごくゲームが売れててさ。SNKがNEOGEOでマーケットを席捲してたなあ。
俺がいた会社もゲーム機をブラジル、アルゼンチン、メキシコに結構売っててさ。そのうちのある機械が故障したらしくって、客先に行って修理してきてくれって言われてね。
ちょうどいいタイミングで南米セールス担当がブラジルとアルゼンチンに出張するっていうので一緒に行くことになったのよ。
で、まずブラジルのサンパウロへ行って客の経営するゲーセン行って機械を修理したよ。おおよその見当がついていたから持ってきた部品と交換して修理は終わって、セールスと一緒にあちこち客先を回って機械を売り込んでさ。その時セールスが言ってたんだけど、「うちの機械を買ってください。うちには、機械修理できる技術者がいますよ。今回わざわざ連れてきました。安心して買ってください」って客に会うたびに俺を紹介してくれて、こうすると機械が売れるんだって。
そうしたら「それはいい、ちょうど壊れた機械があるから直してくれ」って言われてね。「じゃあちょっと見ましょうか」って店に入ると見たこともない他社の機械でさ、ざっと見て、「たぶんこれじゃないっすか?ここ交換してみてください」って言って、店の修理担当が交換したら直ってさ、感謝されたよ。
しかしブラジルはすごく景気が良かったよ。なんでこんなに景気がいいの?ってセールスに聞いたら、政府がデノミをやって、通貨の切り下げの事ね、それまでスーパーウルトラインフレーションでコーヒー一杯が百万クルゼイロみたいな、クルゼイロは当時の通貨、それがデノミをしてコーヒー一杯が1レアルになって、レアルは新しい通貨ね。感覚としてはなんだか物凄く安くなった気がするでしょ。通貨の単位が変わっただけで収入が増えたわけではないのに物価が下がった下がったといってガンガン金を使うようになったって。その一環でゲーセンが大盛況だったよ。
そのいいタイミングでSNKは日本でだぶついていたNEOGEO筐体をどっさりコンテナに詰め込んでブラジルへ持ってきた。これがバカ売れしてね」
「へえ、ブラジルにはそんなにたくさんゲーセンがあったんですか?」
「ゲーセンもあったけどゲーム機の大半はパン屋に置いてたよ」
「パン屋?どういうことですか?」
「ブラジル人はパンが大好きで、そこら中にパン屋がある。パン屋はパンだけじゃなくってハムやら牛乳やらもあってちょっとしたコンビニみたいなものだったよ。そこの軒先にゲームを数台並べて子供たちが遊んでたよ」
「ちょっと想像しづらいですね。パン屋さんとゲームって」
「ブラジルって国は新しいものと古いものを違和感なくミックスできる印象があるな。移民の国だからかもしれないなあ」
「行ってみたくなりました」
「じゃ、行こうか」
「いや。いいいです」
続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。