ゲーム屋人生へのレクイエム 45話
展示会で久しぶりにゲーム業界の空気を吸ってテンションが上がったけどまた失業すると思い出して凹んでいたころのおはなし
「すうーはあーすうーはあー」
「何してるんですか?」
「全集中の呼吸だよ。知らないの?」
「知ってますが・・・。オワコン気味だし、気安く使うと炎上しますよ」
「面倒くさい世の中だなあ。どうやって夜逃げするかを考えなければならない状況で困り果てていたんだよ。それで、アトランタ出張中に着てたスーツを片付けてたらズボンのポケットからドライバーが出てきたんだよ。あ、これ会社の道具を借りっぱなしで持って帰ってしまったって気づいてね」
「もらっちゃえばいいじゃないですか」
「何言ってんだい。それじゃ泥棒でしょ。俺は借りたものは返す主義だから、会社に返しに行ったのよ。そうしたら社長室に案内されて部屋には社長と海外事業部長がいてさ。部長がちょうど君の話をしていたところだって言うのよ。まとまった仕事があるんだけどやってくれるかって聞かれてさ。どんな仕事ですかって尋ねたら、R社が下請けの組み立て工場に発注していたゲーム機械の組み立ての仕事があったが、その組み立て工場が倒産して未完成の機械100台ほどが残った。それでその未完成の機械を裁判所に差し押さえられる前に慌てて回収して倉庫に置いてある。こいつらをできる限りたくさん完成品にしてほしい。という仕事の依頼だったのよ」
「おお、今度は長期の仕事になりそうですね」
「うむ。ほぼ完成してる機械もあれば全然組み立てしていない機械もあって未完成の度合いにもよるけど100台だと多分二か月ちょいくらいかかりそうですって答えてさ。それで頼むってことで組み立ての仕事を引き受けたのよ」
「100台、結構な数ですね。それでどうなったんですか?」
「毎日ガンガン組み立ててひと月半で完了したよ。完成したのは90台ちょいだったかな。残りは部品が足らなくてあきらめた。それでできた機械をコンテナにどんどん詰めてメキシコに売った。気分すっきり倉庫もすっきりだったよ」
「でもまた夜逃げの話に戻るんですよね?」
「それが今回は戻らないのよ。話は新展開するぞ。機械の組み立ても終わりかけたころに部長からRに就職するつもりはないかって聞かれたのよ」
「やったー!ついにゴロゴロ夜逃げ生活から脱出ですね」
「まあまあ、物事には順序がある。話を聞きなさい。それで部長にもちろん就職したいですと答えたのよ。で、俺の場合ビザが必要でしょ。42話参照してちょうだい」
「ああ、面倒なやつですね」
「そう。それでいったん日本のR本社に入社して、それからアメリカ子会社に出向するのがいいんじゃないかって部長が言ってね。それで俺もそうですねって答えてさ、そしたら日本で入社面接することになるけど帰国できるか?って聞かれたのよ。そして頭を抱えた」
「なんで頭を抱えるんですか・・・あ!お金!」
「そう。金がない。貯金の残高では飛行機代が払えない。日本滞在中の宿泊費や交通費は虎の子の日本円が多少あるのでなんとかなりそうだけど飛行機代は無理。社員でもない俺の帰国の旅費を会社が払うことはあり得ない。自腹で何とかしないといけない。でもここで金がないから面接行けません、お金貸してくださいなんて頼めるわけがない。もし借りることができたとしても返さないといけない。もし入社面接で不合格になったら返す方法もなくなる。さてどうしよう」
「借金するしかないでしょう」
「そうなるよねえ」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。