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kotoba(ことば)の玉手箱ーお薦めの古典紹介 Vol.6(2)『自省録』(マルクス・アウレリウス・アントニヌス著)

皆さん、こんにちは。
それではマルクス・アウレリウスの『自省録』の紹介を続けます。

『自省録』の中身の紹介の前にマルクス・アウレリウスの哲学がどういったものだったかを簡単に紹介したいと思います。

プラトンという哲学者の名前はなんとなくでもお聞きなった方もいらっしゃるかと思いますが、プラトンは政治は哲学者にゆだねるのが理想としていました。その理想が実現したのがこのマルクス・アウレリウスの場合だとされることがあります。ローマ帝国の皇帝でありながら哲学者でもあった、この人物がどういった哲学に属するのかを紹介したいのです。

マルクス・アウレリウスの哲学

皆さんは「ストイック」という言葉を聞いたことがありますか。
「彼は、彼女は、とてもストイックな生活を送っている」などという言い方をしますが、この場合の「ストイック」とは「禁欲的」とか「克己的」などと言う意味が含まれていると思います。自分を律するとか、自分を抑制しながら何かの目標に向けて厳格に過ごすというイメージでしょうか。

辞書を引くとさらには「ストア学派の哲学者」という説明が出てきます。
まさにマルクス・アウレリウスの哲学はこの「ストア学派」に属するものと評価されています。

ではこのストア学派の哲学とはどんなものでしょうか。
哲学を考える時に出てくるテーマに「人はいかに生きるべきか」「どうすれば幸福になれるか」というものがあります。このテーマに対して、ストア学派と対立するものとして「エピクロス派」というものがありました。

エピクロス派の哲学
エピクロス(紀元前341年~同270年)は当時の人々から、プラトンやアリストテレスと並ぶ古代最大の哲学者の一人と考えられていたようです。彼の派の考え方は、自然学の探究を通じて世界を理解し、それによって神々や死への恐れといった我々を不幸に導きかねない存在を克服できる、というものでした。その考え方の中には、原子論倫理論が含まれます。

エピクロスが採用した原子論では、空虚と原子(アトム)の存在を認め、空虚の中にある原子の一部が絡まり合って様々な物質を形成する。こうした生成と消滅という運動を繰り返す。人間の活動や自由もこうした自然界という具体的なものに根拠を求めることができる、というものですが、こんな紀元前の時代にこのような考え方ができていたこと自体が驚きだと思いますね。

一方の倫理論は、幸福の追求を最大の目的としています。ここでの幸福とは、心の平静だとか心の動揺がない状態を指すようです。人が満たすべき欲求は自然で必要な欲求だけで、それ以外は動揺を引き起こすだけとして不要と説きました。

ストア学派の哲学
この学派の創始者はゼノン(紀元前335年~同264年)という哲学者のようですが、アテナイにおいて創設した哲学の学派です。この「ストア」という名称は彼がアゴラという土地の北端に位置する彩色柱廊(ストア・ポイキレ)で教えたことからその名がついたと言われています。

ローマでは紀元3世紀までストア学派の哲学が流行しましたが、ローマ帝国時代のマルクス・アウレリウスがこの学派に属します。この学派は初めて総合的な思想体系を構築した哲学と評価されています。論理学自然学倫理学の3つからなります。

論理学では、真の認識とは何かを探究する学問です。真理に到達するためには誰もが同意できる普遍的な理解が重要であると強調しています。

自然学では、物質に働きかけるロゴス(理性)が存在し、その結果「すべてのものは互いに関わり合っている」と説きます。

論理学では、どのように叡智に達するかを示します。我々にコントロールできる、決められることは自分の心に浮かぶ感情だけで、我々に外から降りかかってくる出来事はどうしようもできないので、それを受け入れる以外の選択肢はないとします。このように考えていくと、叡智とは「自然に従って生きること」になります。感情に支配されることなく、運命を避けられないものとして受け入れ、叡智を身に付けることをストア学派は説いたということです。

以上を簡単にまとめると、
エピクロス派は「人間は原子の塊にすぎず、目に見えないものなどない。だから、神などもいないし、死後の世界もない。人が生きている間は死はないし、死が訪れた瞬間に人はもういないから、死を恐れる必要もない。人間は死ぬまでの生きている間は自分の幸せと快楽を追求すればよい」という教えです。
ストア学派は「人生の目的は徳を積むことだ。知的、道徳的に完全になっていけば、判断を間違えることもないし、心が乱されることもない。神の恵みや運命に委ねたりせず、自分の人生は自分の努力で磨かねばならない」という教えです。
(以上、『グランゼコールの教科書』(プレジデント社)、『聖書を読んだら哲学がわかった』(日本実業出版社)、『世界文学大事典』(集英社)他参照)

以上、今回の本の紹介は、歴史的な背景とともに哲学の内容も説明しましたので少し長く、難しくなってしまったかもしれません。

このような哲学を学んだマルクス・アウレリウスの『自省録』がどんな内容なのかは、次回に説明したいと思います。


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